3点目の変化として自動化の在り方の変化に触れたい。遠隔操作ロボットとメタバースの組み合わせにより、自動化の対象が大きく広がりつつある。既存の自動化の考え方においてはマテリアルハンドリング業務や品出し業務など、「単純作業であるものの人の判断が必要な工程」については自動化が難しいとされてきた。荷姿などが異なり一様に自動化が難しいからだ。こうした工程は人手作業とせざるを得ず、その結果、物流/マテリアルハンドリングや、建設業務、サービス業務などでは自動化比率が低くなっているのが現状だ。
現在では人手工程と自動化工程とともに、第3の選択肢として「メタバース×遠隔操作ロボット」の選択肢が生まれてきている。ロボット自身が判断できる部分は自動化し、人の判断や介入が必要な部分はロボットの視覚と分析結果で構成されるメタバース空間を作成し、その中で人がロボットを遠隔操作して学習させるというものだ。
東大発のスタートアップであるテレイグジステンスは倉庫のマテリアルハンドリングや、ファミリーマートなど小売店の飲料品の品出し業務においてメタバースと遠隔操作ロボットを用いて自動化を図っている。原則は自動ロボットが当該業務を行うとともに、人の判断が必要なタイミングでは人が介入する。
具体的には、遠隔地にいるオペレーターがVRヘッドセットを通じてメタバース空間に入り、ロボットを遠隔操作する。ロボットが処理できない工程を人が介在して対応する。さらにその作業結果をロボットが学習することで、将来的に人の介在をできる限り減らしていくことが期待される。
人の判断が一部必要であることから自動化ができていない工程はあらゆる産業に存在している。つまり、メタバースと遠隔操作ロボットの組み合わせによる自動化は、これまでの自動化対象範囲を大きく広げることにつながるのだ。
作業者が1人が1台ずつ張り付く必要はなく、20〜30台など複数台を同時運用したり、複数の工程や現場などを掛け持ちして、ロボットが判断に迷うタイミングのみ介入したりという形も想定される。生産性も大きく向上し得る。今後、日本の労働力や生産年齢人口が減少する中で、メタバース×遠隔操作の活用の進展が生産性において重要な鍵となるのだ。
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小宮昌人(こみや まさひと)
JIC ベンチャー・グロース・インベストメンツ株式会社 プリンシパル/イノベーションストラテジスト
慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント研究科 研究員
日立製作所、デロイトトーマツコンサルティング、野村総合研究所を経て現職。2022年8月より政府系ファンド産業革新投資機構(JIC)グループのベンチャーキャピタルであるJICベンチャー・グロース・インベストメンツ(VGI)のプリンシパル/イノベーションストラテジストとして大企業を含む産業全体に対するイノベーション支援、スタートアップ企業の成長・バリューアップ支援、産官学・都市・海外とのエコシステム形成、イノベーションのためのルール形成などに取り組む。また、2022年7月より慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント研究科 研究員としてメタバース・デジタルツイン・空飛ぶクルマなどの社会実装に向けて都市や企業と連携したプロジェクトベースでの研究や、ラインビルダー・ロボットSIerなどの産業エコシステムの研究を行っている。加えて、デザイン思考を活用した事業創出/DX戦略支援に取り組む。
専門はデジタル技術を活用したビジネスモデル変革(プラットフォーム・リカーリング・ソリューションビジネスなど)、デザイン思考を用いた事業創出(社会課題起点)、インダストリー4.0・製造業IoT/DX、産業DX(建設・物流・農業など)、次世代モビリティ(空飛ぶクルマ、自動運転など)、スマートシティ・スーパーシティ、サステナビリティ(インダストリー5.0)、データ共有ネットワーク(IDSA、GAIA-X、Catena-Xなど)、ロボティクス、デジタルツイン・産業メタバース、エコシステムマネジメント、イノベーション創出・スタートアップ連携、ルール形成・標準化、デジタル地方事業創生など。
近著に『製造業プラットフォーム戦略』(日経BP)、『日本型プラットフォームビジネス』(日本経済新聞出版社/共著)があり、2022年10月20日にはメタバース×デジタルツインの産業・都市へのインパクトに関する『メタ産業革命〜メタバース×デジタルツインでビジネスが変わる〜』(日経BP)を出版。経済産業省『サプライチェーン強靭化・高度化を通じた、我が国とASEAN一体となった成長の実現研究会』委員(2022)、経済産業省『デジタル時代のグローバルサプライチェーン高度化研究会/グローバルサプライチェーンデータ共有・連携WG』委員(2022)、Webメディア ビジネス+ITでの連載『デジタル産業構造論』(月1回)、日経産業新聞連載『戦略フォーサイト ものづくりDX』(2022年2月-3月)など。
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