メタバースとデジタルツインの融合による産業/都市の変化の方向性には大きく3つの方向性が存在する。それぞれについて紹介するとともに、事例を示していこう。
(1)マクロ変化:都市/社会/工場全体などの全体つなぐデジタルツイン
(2)ミクロ変化:人間の動作や気付き、暗黙知のデジタルツイン
(3)自動化の在り方が変化:遠隔操作とメタバース活用によるあらゆる領域への自動化拡大
まずマクロ方向での変化であるが、個別の製品やラインなどの部分最適を担ってきたデジタルツインがメタバースの概念やアプローチを取り入れることで、範囲を広げている。例えば都市や社会・工場全体などだ。下図は有志団体Dream Onが提供している都市のメタバース空間上で空飛ぶクルマのデジタルPoCを行っている様子だ。
空飛ぶクルマや、自動運転車、ロボットなど、先端技術の導入検討に当たっては、空飛ぶクルマをはじめとした先端技術では、機体など目に見えるモノが具現化されると、人々の理解や周辺ビジネスの具体化など、社会受容性が向上しやすい。同時に、社会受容性が向上しなければニーズや量産規模が見えてこない、技術的な要件が定まらないことなどで開発がドライブされにくい。つまり、先端技術開発と社会受容性は「卵が先か、鶏が先か」の関係にある。
メタバース空間であれば、先端技術の具現化を待たずして、それらの技術が実装された社会を具体的に提示することができる。技術を実装した社会を先んじて構築して、技術の動きを見るシミュレーションやデジタル上でのPoC(概念実証)を実施するのだ。そうすることで、人々のイメージの具体化促進/社会受容性向上が期待されるとともに、周辺ビジネス/サービスの検討が進展することが期待される。PoCの結果が機器/技術開発企業にまでフィードバックされれば、社会実装への好循環が生まれやすくなるだろう。
図4を思い出していただきたい。この都市空間メタバースでの空飛ぶクルマのデジタルPoCでは、都市空間3Dデータや気象データを活用して、実環境を再現したシミュレーション/体験を目指している。現在は東京駅を中心とした都市型のルートと、島嶼(とうしょ)部をモデルとした地方型のルートが用意されている。先端技術で街づくりを推進したい行政や自治体、機体部品開発メーカー、空飛ぶクルマのサービス展開を検討するサービス事業者などとの連携が進む。
今後は自治体などと連携し、空飛ぶクルマの実現に向けた街づくりや、規制/標準化などに関する省庁とのルールメイキングにも生かしていく考えだ。図写真の取り組みにおいてDream Onは三菱電機との連携を行っている。三菱電機は空飛ぶクルマに関する技術実装をメタバース空間上で試すことで、自社としての空飛ぶクルマ向け部品の要件の具体化を図る。設置箇所や求められる機能/サイズなどの技術要件を定義するために、まずは仮想空間で主観に近いユーザー体験を作り上げる。そこから技術要件をより具体化していくのだ。
メタバースの技術やアプローチを取り入れることで、こうした社会や都市のデジタルツインの生成が格段に行いやすくなる。下図は国土交通省の九州地方整備局でのゲームエンジンUnreal Engineとメタバースを活用して河川開発を行った事例だ。
九州地方整備局は国土交通省の地方支分部局で沖縄を除く九州7県を管轄している。同局は河川空間とまち空間の融合が図られた良好な水辺空間の形成を目的とした山国川の「かわまちづくり」において、ゲームエンジン(後述のUnreal Engine)やメタバースを活用した住民との合意形成を目指す。
整備したインフラは住民に利活用されることで価値が生まれる。そこでゲームエンジンを用いて川づくり後の3D世界を構築し、説明会などで住民にヘッドセットを用いて整備後の3D世界に入ってもらうことにした。そこで、議論や合意形成、フィードバックをもとにした設計のブラッシュアップを行ったのだ。
従来は模型やイメージパースを制作し住民へ説明、合意形成を行っていた。しかし、コスト/リードタイムがかかる上、イメージを十分に伝えるには限界があった。ゲームエンジンやメタバースを活用することで、設計にかかる工期/コストの削減を実現するとともに、手すりの高さや階段の段差、川の飛び石の間隔、水深なども含めて住民がイメージでき、スムーズな合意形成につながっている。
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