コロナ禍を経てグローバル化するデジタルヘルス先進国エストニア発のICT海外医療技術トレンド(96)(3/3 ページ)

» 2023年06月16日 07時00分 公開
[笹原英司MONOist]
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ハイブリッド型イベントコミュニケーションを展開するミルトン・イベント

 ミルトン・イベント(Miltton Events、関連情報)は、企画からデザイン、運営、データ分析までをトータルにサポートするイベントマネジメントサービス企業である。最近は、特にハイブリッド型イベントやメタバース技術の活用に注力している。

 同社がイベントをサポートした事例として、2022年2月28日〜3月2日にケニア・ナイロビで開催された第5回国際連合環境総会(UNEA)がある(図2参照、関連情報)。

図2 第5回国際連合環境総会(UNEA)(2022年2月28日〜3月2日)のWebサイト 図2 第5回国際連合環境総会(UNEA)(2022年2月28日〜3月2日)のWebサイト[クリックで拡大] 出所:The United Nations Environment Programme (UNEP)「The resumed session of UNEA-5 (UNEA-5.2)」(2022年2月28日〜3月2日)

 継続するCOVID-19パンデミックの影響を受けて、この総会はハイブリッド開催となったが、193カ国から1500の環境関係閣僚/代表がナイロビに集結し、総参加者数は5000人超に達している。ミルトン・イベントによると、イベントは対面およびオンラインの双方で、全ての参加者向けに差し当たりのない方法で展開される必要があった。また、メッセージが鍵であり、課題や解決策をスポットライトにもたらすために、政府関係者だけでなくメディア業界も一体となる必要があったという。

 ナイロビでは、開催期間中、52のハイブリッドセッションが開催された後に最終会合が設定されていた。セッションは、対面会合と世界中からのオンラインオーディエンスから構成され、国際放送と6つの国連公用語による同時通訳が配信された。このような状況下で、目的に対する全員の注目と参加を維持するために、セキュリティ、ストリーミングおよびその他のデジタル制作の要求を満たす必要があったという。

 総会の最後にミルトン・イベントは、国際的なアーティストであるベンジャミン・フォン・ウォン氏と協力して、高さ30フィートの「#TurnOffThePlasticTap」を設置している(関連情報)。

 なお、ミルトン・イベントは、大阪市内に日本国内向け営業拠点を開設している。

デジタルを活用したプロセス自動化で評価されるワイザーキャット

 ワイザーキャット(Wisercat、関連情報)は、チェンジマネジメントやプロセスサイエンスのトータルサポートで定評がある。具体的な事例としては、米国のソフトウェア開発企業ABBYYの車両登録自動化システムがある。2021年7月29日、ABBYYは、ブログの中で、ワイザーキャットと連携した車両登録プロセスの自動化事例を紹介している(関連情報)。

 自動車購入者にとって、車両登録/権利プロセスは非常に複雑である。登録プロセスの間に、よいカスタマーエクスペリエンスの提供ができないと、顧客からの紹介やリピーター獲得に悪影響を与える可能性がある。このような車両登録プロセスで直面する課題を解決するために、ABBYYはワイザーキャットと提携して、複数ページの文書画像を取り込み、REST経由でMicrosoft Graphの受信箱に直接提出するモバイルキャプチャーアプリケーションを構築して、米国の法人顧客の車両登録プロセス自動化を実現したとしている。ABBYYのインテリジェント文書処理プラットフォームが電子メールの受信箱をモニタリングして、受信した電子メールを分類し、添付の自動車運転免許証にあるデータを認識して取り込み、後処理のためにローカルのERPシステムにエクスポートする。このソリューションは、さらなるインテリジェントデータの取り込みシナリオを自動化するために、企業全体で利用され、業務量や費用の削減に貢献するとしている。

 他方、ワイザーキャットがエストニア国内で進めている事例として、エストニア政府傘下の税務・通関委員会の建設業関連システム構築がある。2022年10月14日、エストニア税務・通関委員会は、ワイザーキャットとヘルメス(Helmes)が共同で、建設現場向け情報システムを構築することを公表した(関連情報)。

 2023年10月より、エストニア国内の主要な建設現場の全従業員は、現場の入退勤時に特別なスマートカードで登録する必要がある。ワイザーキャットは、エストニア最大規模のITソリューション企業であるヘルメスと協力しながら、建設現場における請負業者チェーンおよび勤務時間を管理する情報システムを構築する予定である。

 税務・通関委員会は、これにより、袋入り賃金の支払いなど、税務不正を検知して、正確に雇用を登録した人(外国人の場合には、関連する登録またはデータベースに登録した人)が建設現場で働いていることを証明するのに役立つとしている。また、このシステムにより、外国人労働者の適法性をチェックする警察・国境警備庁や、労働環境の要求事項順守を監視する労働監督官の監督が簡素化されるとしている。この情報システムの構築費用は116万ユーロ(付加価値税込み)である。

グローバルデジタルヘルスにおけるエストニア発ICTの展開に注目

 2023年6月5日、世界保健機関(WHO)は、欧州委員会と共同で「デジタルヘルスパートナーシップ」を立ち上げたことを発表した(関連情報)。

 本連載第47回で触れたように、WHOは、2018年5月26日の「デジタルヘルス決議」(関連情報、PDF)を皮切りに、「WHOガイドライン−保健医療システム強化のためのデジタル介入に関する推奨事項」(関連情報)、「2020〜2025年グローバルデジタルヘルス戦略」(関連情報、PDF)など、コロナ禍前からWithコロナ期にかけて、積極的にデジタルヘルスに取り組んできた。

 他方、本連載第30回で触れたように、欧州全域でデジタルヘルスへの取り組みが本格化したのは、エストニアがEU理事会議長国を務める2017年下半期に策定/公表した「デジタルヘルス社会宣言」(関連情報)が契機となっている。

 日本政府の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太方針)」策定に向けた経済財政諮問会議では、たびたびエストニアの電子政府に関する情報が取り上げられてきたが、エストニアと日本の企業間で、具体的なビジネスレベルまで踏み込んだアクションが本格化するまでは至っていない。

 今回紹介したエストニア企業はいずれも、保健医療をメインフィールドとしていないが、異業種で商用化したデジタル技術を通じて、隣接領域まで事業を拡大しつつある。保健医療分野だけではスケーリングが困難な製品/サービスを抱える医療機器企業にとっても、参考となる点は多い。

筆者プロフィール

笹原英司(ささはら えいじ)(NPO法人ヘルスケアクラウド研究会・理事)

宮崎県出身。千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所、グロバルヘルスイニシャチブ(GHI)等でビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。

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