コロナ禍を経てグローバル化するデジタルヘルス先進国エストニア発のICT海外医療技術トレンド(96)(2/3 ページ)

» 2023年06月16日 07時00分 公開
[笹原英司MONOist]

モジュール建築のデジタル化に注力するクレアトマス

 クレアトマス(Creatomus、関連情報)は、エストニア芸術アカデミー(関連情報)発のICT企業で、短期間に施設や住宅を供給できるモジュール建築に関わるデジタル技術に注力している。同社が開発した構成/価格設定/見積作成(CPQ)ソフトウェア「Modular Designer」は、以下のような点を特徴としている。

  • 組み合わせ論(Combinatorics):モジュールコンポーネントを組み合わせて構成することによってモジュール建築を10倍早く設計する
  • 製造/組み立てのための設計:設計の柔軟性を犠牲にすることなく生産準備ができた設計を構築する
  • リアルタイムの費用化:素材の量や建築の取り組みをコンポーネントの定義に組み込むことによって、即時の部品表や、組み込み型温室固化ガス排出量計算/価格設定提供を生産する

 「Modular Designer」が提供するサービスとしては、以下のようなものがある。

  • コンポーネントライブラリ:全てのモジュールアイテムを保持するデータベース
  • 価格設定エディタ:簡単に管理できるコンポーネント向け価格設定情報エディタ
  • 設計エディタ:2Dで編集し、3Dで表示する、迅速な設計向けインタラクティブアプリケーション
  • 見積作成エディタ:設計向けに図解付きの価格見積を自動生成する

 クレアトマスの海外事業展開についてみると、2019年の王立アイルランド建築家協会(RIAI)訪問を契機に、アイルランドの住宅プラン自動化プラットフォーム企業であるオポプラン(Opoplan)と提携している他(関連情報)、エストニア芸術アカデミーとともに「木の未来:ウクライナ復興メイカソン」を支援する(関連情報)などしている。

公共交通分野のスマートシティーでグローバル展開するリダンゴ

 リダンゴ(Ridango、関連情報)は、エストニア、スウェーデン、フィンランド、リトアニア、ノルウェー、ウクライナ、グリーンランドなど、北欧およびバルト諸国の公共交通機関向けのスマートトランスポートシステム導入で実績を積んできた企業である。

 同社は2020年5月12日、フィンランド南東部のイマトラにおいて、公共交通機関向けのアカウントベースチケット発券(ABT)システムを導入したことを公表している(関連情報)。このシステムでは、全てのチケット情報が、物理的なカードではなく、デジタルユーザーアカウント内に保存される。そしてABTシステムに加えて、自動化されたリアルタイム車両位置情報サービスを導入している。

 また2021年12月20日には、スロベニアの交通管理システムベンダーであるLITトランジットを買収したことを公表している(関連情報)。LITトランジットは、シンガポール、香港、インド、サウジアラビア、オーストラリア、カタール、ニュージーランド、オマーンなどで、チケット発券管理や交通管理、決済ソリューションを提供している。今回の買収は、欧州主導のビジネス展開を行ってきたリダンゴが、インド太平洋地域に事業を拡大する好機となっている。

 さらにリダンゴは2022年7月6日、リトアニアの首都ヴィリニュスとの間で、アカウントベースチケット発券(ABT)システムを利用して公共交通発券システムを刷新する契約を締結したことを公表している(関連情報)。現在ヴィリニュスでは、1日当たり平均34万6000件の交通移動があり、この移動のモードを促進するためには、現行のチケット発券システムを拡張する必要があるという。新たな電子チケット発券システムにより、交通機関利用者は、特定のカードやデバイスに添付されることなく、自分が選択した最も便利なチケットメディアを利用することができる。加えて、新システムは、公共交通機関の検査をより効率的かつ便利にするという。リダンゴの技術は、ヴィリニュス市内の約700の公共交通車両で利用され、2023年中にはシステム全体がスタートするとしている。このプロジェクトは、欧州地域開発基金の財政支援を受けている。

電子政府のユーザーエクスペリエンス改善を起点に事業展開するリシンク

 リシンク(ReThink、関連情報)は、Webサイト、アプリケーション、セルフサービスポータル、電子商取引サイトなどにおける顧客中心のサービスデザインを強みとする企業である。同社の代表的な事例として、エストニア経済通信省のWebサイト再構築(関連情報)がある。

 エストニアは電子政府サービスの先駆者として知られている反面、「ユーザーエクスペリエンスに一貫性がない」「ユーザーニーズよりも技術的ケーパビリティ寄りに構築されている」といった課題を抱えていた。「デジタル公共サービスを使い勝手のよいものにする方法は」「異なるサービスのタッチポイントのための共通基盤を確立する方法は」という疑問に応えるために、エストニア政府は、異なる機関のケーパビリティを統合した公的デジタルサービスを設計する、新たなイベントベースのアプローチを検討していた。

 その中でリシンクは、個人データ保護、企業向け金融支援、電子領収書の3つのプロジェクトに取り組んだ。いずれのプロジェクトも、既存システムへの単なるインタフェースにとどまらず、現実生活のユーザーニーズの観点に立脚して構築された。リシンクでは、40以上のユーザーインタビューや350の回答者に対するアンケート調査を実施し、2つのフルサービスのプロトタイプを提示している。参考までに図1は、リシンクが関与したリニューアル後のエストニア経済通信省Webサイトである。

図1 エストニア経済通信省のWebサイト(2023年6月時点) 図1 エストニア経済通信省のWebサイト(2023年6月時点)[クリックで拡大] 出所:Republic of Estonia「Ministry of Economic Affairs and Communications」(2023年6月時点)

 上記のようなケースに対応するため、リシンクでは以下のようなサービスメニューを提供している。

  • 戦略的計画策定
  • ワークショップとイベント
  • マネジメント層に対するコーチング
  • ペルソナ
  • カスタマージャーニーのマッピング
  • 検証実験

 同社によると、最近では、健康医療の分野でプロジェクトが増加しているという。

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