あと2つ、MONOist読者向けに製造方法の視点で面白かった展示内容を紹介したい。
1つ目は、2009年に創業された久野義憲氏が代表を務めるAmbientecだ。同社の最初の製品は、デザイナーの小関隆一氏によるボトル型のポータブル照明「Bottled」。その後、田村奈穂氏がデザインしたポータブル照明「TURN」が登場すると、これが世界的に大きな注目を集め、同製品だけでなく、その後のAmbientec製品も世界中でコピー品が出回るほどの人気となった(同社では、模造品との区別方法などを公式Webサイトで情報発信している)。そんなAmbientecが、今回満を持してサローネ国際照明見本市「Euroluce(エウロルーチェ)」に初出展を行った。そして、これに併せて、ミラノを拠点に活躍する2人のデザイナー、大城健作氏とElisa Ossino(エリザ・オッシノ)氏による2つの新作照明が発表された。
オッシノ氏がデザインした「madco」は、幾何学形態の支えに360度好きな方向を向けられる球形の光源を設置した照明で非常に面白い作品であったが、モノづくりの観点から、さらに興味深かったのが大城氏の照明「Extrus」だ。
大城氏は今回、アルミニウムの押し出し材を切削加工して作る2種類の照明をデザインした。1つは側面から見たときの形が「T」字型で、こちらは既に製品化が決まっているもの。そして、もう1つが「Y」字型の照明である(実は最初にデザインしたのはこちらだという)。この形状の異なる2つの照明は、大城氏がデザインした同じアルミ押し出し材が原料で、切削の仕方によってバリエーションを生み出している点が面白い。ある意味、大城氏は切削の仕方によって複数の形状バリエーションを生み出せる部材をデザインしたといえる。
照明関係のデザインでもう1つ面白かったのが、イタリアの高級照明ブランドであるLODESが、英国・ロンドンを拠点とする大御所デザイナーRon Arad(ロン・アラッド)氏と組んで生み出した、新たな照明「Cono di Luce(コーノ・ディ・ルーチェ:“光のコーン”という意味)」だ。その名の通り、アイスクリームのコーンをひっくり返したような形状の照明で、ガラスのコーンの内側にカラフルな模様が描かれた不燃性シートがぴたりと貼られたシンプルな構造となっている。
明かりをともすとシートが透けて、その内側からストライプや格子のシルエットが浮かび上がる。光っているコーンの内側を見てみると、シートの上にびっしりとたくさんの光源が付いていることが分かる。実はこのシート、きれいにストライプの影が出るように回路設計されたプリント基板なのだ。
ちなみに、この記事を執筆している際、2017年に日本の紙メーカーの竹尾、エレファンテック、そしてnendoが「PAPER TORCH」というプリント基板を丸めて照明にできる製品を出していたのを発見した。この製品とは異なり、Cono di Luceの基板はユーザーが丸めるのではなく、最初からペンダントライトまたは卓上型の形に加工されていた。いずれにせよ回路のレイアウトが、そのまま製品が描き出す光の表情として表れる点なども含めて、Cono di Luceはかなりユニークな作品だといえる。
大城氏のExtrusとCono di Luce、これら2つの作品が、環境配慮がより一層重視されるこれからの時代、ありものの素材を組み合わせて作るのではなく、素材そのものからデザインを始めた方がより良い製品が作れる、という新たなモノづくりの方向性を示唆しているように感じた。
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