「全ての人の移動を楽しくスマートにする」をミッションに掲げ、誰もが乗りたいと思えるパーソナルモビリティを手掛けるWHILLの平田泰大氏に、歴代「WHILL」の変遷を踏まえながら、デザインに込められた思いや、各世代でどのようなチャレンジが行われたのかを詳しく聞いた。
見た目の印象だけでなく、売れ行きやプロダクトそのものの価値をも左右するデザインの力。日々、製品開発に携わる人であれば、その重要性を十分に理解されていることだろう。
もちろん、デザイン性だけを追求し、求められる機能や性能を後回しにしては、製品本来の価値は発揮されないし、機能や性能、あるいは製造性やコストだけを意識し過ぎてデザインを犠牲にしては、売れるものも売れなくなってしまう。
いかに先進的なテクノロジーを搭載した真新しいプロダクトであっても、その本質は変わらないはずだ。イノベーティブなプロダクトであればなおのこと、そういったバランス感覚が重要であり、だからこそデザインに込められた思いもひときわ強いものがある。
今回は「全ての人の移動を楽しくスマートにする」をミッションに掲げ、誰もが乗りたいと思えるパーソナルモビリティを手掛けるWHILL(ウィル)の平田泰大氏(同社 車両開発部 部長)に、歴代「WHILL」の変遷を踏まえながら、デザインに込められた思いや、各世代でどのようなチャレンジが行われたのかを詳しく聞いた。
――まず、歴代「WHILL」の変遷について教えてください。
平田氏 パーソナルモビリティ「WHILL」が広く世に知れ渡るきっかけとなったのが、2011年開催の「東京モーターショー」です。ここでプロトタイプ第1号である「WHILL」のコンセプトモデルを発表しました。既存の車いすにアドオンすることで電動化を実現するコンセプトを提案し、実際に走行できるレベルにまで作り上げました。
この段階では、まだ有志のメンバーが開発を手掛けていたのですが、2012年5月に創業メンバーの3人がWHILLを設立し、製品化に向けた活動を本格的に開始しました。
そして、2013年初頭、電動モビリティとして現在の「WHILL」の原型となるプロトタイプ第2号を発表。プロトタイプ第1号のような既存の車いすにアドオンするタイプではなく、オリジナルの電動モビリティを開発したのです。前輪1つ、後輪2つの3輪走行を採用しており、このコンセプトモデルで初めて「オムニホイール」を搭載することになりました。
2014年、最初の製品化モデルとして登場したのが、現行製品の1つであるフラグシップモデルの「WHILL Model A」です。こちらのモデルから4輪タイプとなり、オムニホイールとの組み合わせで高い走破性を実現。電動車いすやパーソナルモビリティとしては非常に珍しい“四輪駆動”を可能にしました。
2017年には、「WHILL Model A」の走破性をそのままに、より幅広いユーザー層へリーチすることを狙った普及モデル「WHILL Model C」を発売しました。iPhoneと連携した通信機能や、分解してセダンタイプの自動車のトランクに積み込むことができる機構を備えるなど、新しいチャレンジも盛り込んだ製品です。
また、現在「WHILL Model C」の基本機能やデザインを踏襲した研究開発モデル「WHILL Model CR」の提供も併せて行っています。
――「WHILL」のコンセプト、それを体現している“デザイン思想”はどのあたりにあるのでしょうか?
平田氏 「WHILL」を開発するきっかけとなったのが、「100m先にあるコンビニエンスストアに行くのを諦めている」という、ある車いすユーザーさんの言葉なんです。
この言葉を聞いた創業者メンバーは、その理由、背景にあるものは何かを追求し、既存の車いすに存在する“2つのバリア”に気が付いたんです。1つは「精神的なバリア」、もう1つは「物理的なバリア」です。この2つのバリアを壊すような、ブレークスルーできるようなプロダクトに車いすを昇華させようと、「WHILL」開発をスタートさせたのです。
まず、精神的なバリアですが、車いすに乗っているだけで「障害を抱えている」という目で見られてしまい、出掛ける気がそがれてしまうという問題があります。そうした問題を引き起こしている原因の1つとして考えられるのが、車いすそのもののデザインです。
もう1つの物理的なバリアについては、わずかな段差を乗り越えられない、坂道を上るのが大変など、車いすで行けない場所が多いことが挙げられます。これに対しては電動化、そしてオムニホイールの採用により、高い走破性を実現することで物理的なバリアを突破しています。
今回の主題である“デザイン”の観点で見ると、既存の車いすはバイクや自転車のように「乗っている姿もカッコいい」というものとは異なり、“椅子”の延長から脱却できていません。そんな思いもあって、“車いす=障害のある人が乗るモノ=椅子の延長”という既成概念をデザインのアプローチでどう脱却できるか、つまり、どうすれば精神的なバリアを壊すことができるかを突き詰めていきました。その結果、「WHILL」のアイデンティティーを表現するある1つのデザインが導き出されたのです。
そのデザインとはどのようなものか――。2011年に発表したプロトタイプ第1号から製品化を果たした現行モデルまで一貫しているのが、タイヤ(駆動輪)から斜め上に真っすぐ伸びる1本のラインです。WHILLではこれを「GoGoライン」と呼んでいるのですが、駆動輪から電力エネルギーが放出されるイメージを表現しています。電動化による走破性の高さ、乗っている姿をカッコよく見せたいという思いが込められています。
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