一方のSamsungは、毎年その年のミラノデザインウィークの顔となる目玉展示が行われる会場の1つSuperstudioのメインホールを貸し切って、同社の家電製品のデザインと製造に関する展示を行っていた。展覧会の名前は「BESPOKE Home、BESPOKE Life」だ。
“BESPOKE”とはファッション用語で「オーダーメイド」のことを指す。モダンな家に住んでいる人もいれば、クラシカルな家に住んでいる人もいる。さらに、植物や装飾品、アート作品をたくさん飾っている人もいれば、ミニマルな生活シーンを好む人もいたりと、人々の価値観やライフスタイルは多様化している。
そこで、Samsungでは、従来の数種類のカラーバリエーションから商品を選ばせるという販売方式ではなく、利用者一人一人の好みに合わせて徹底的にカスタマイズして提供できるよう製造や流通の方法を見直したという。
例えば、冷蔵庫の場合、2つある扉のそれぞれに対して、デザイナーがあらかじめ選んだ11種類の基本色や4種類のマテリアルからデザインを選択してカスタマイズしたり、それ以外の自分好みの色を選んだりもできる。さらには、アート作品が描かれた扉などを特注することも可能だという。会場では、ミラノのデザインスタジオであるTOILETPAPERがデザインした4つのアート冷蔵庫を展示していた。
この展示でSamsungがもう1つうたっていたのが、環境負荷軽減への取り組みだ。同社は、製品の製造、流通、使用、廃棄といった製品ライフサイクル全体における環境負荷の軽減を目標に掲げている。
具体的には、製品の製造に使う素材に、再生プラスチックや廃棄された魚網由来の樹脂などを活用したり、製品設計や製造プロセスにおいて、素材の使用量などを最適化し資源の消費を抑えたりしている。また、環境に優しい包装材を用いることで、廃棄物の削減にもつなげている。併せて、AI(人工知能)を活用したエネルギー効率の高い製品の提供を通じ、ZEH(ネットゼロエネルギーハウス/消費するエネルギーよりも太陽光パネルなどで発電するエネルギーの方が大きい住宅のこと)の実現につなげていくというビジョンなども紹介していた。
GoogleやSamsungといったテクノロジー企業といえば、毎年1月に米国ラスベガスで開催される「CES」に出展しているイメージの方が強いが、彼らはミラノデザインウィークへの出展にどのような意義を見いだしているのだろうか。
CESの来場者は多いときで17万人ほど(CES 2023は約11.5万人)であるのに対し、ミラノデザインウィークは、世界中から倍以上の40万人ほど(今回は約30.5万人)の人々が集まる。こうした来場者数も理由の1つかもしれないが、実はどちらの展示も1度に見られる入場者数を絞って、ゆったりと展示を楽しめる構成になっていたりもする。
これら大企業同様に、CESとミラノデザインウィークの両方に出展している京都のハードウェアベンチャー、mui Lab 代表の大木和典氏は「CESでは、商品をそのまま展示し、その技術やスペックを語ることが多い。それに対してミラノデザインウィークでは、その製品が生活シーンの中にどのように馴染むかなど、もっと使うシーンを大切にした展示に力を入れている」と語っていた。実際、同社は佐賀県の家具ブランドであるAriake(アリアケ)など、いくつかのインテリアメーカーとともに、趣味の良さを感じさせる歴史ある邸宅の部屋に、同社の製品「muiボード」がいかに自然と馴染むかを展示を通じて訴求していた。
Googleの「自然からインスピレーションを受けた親しみやすいデザイン」や、Samsungの「ライフスタイルに合わせたカスタマイズ」も同様で、これからの家電製品は、機能やスペック以上に、自分のライフスタイルにどれだけ馴染む仕上がりになっているかが差別化につながる重要な要素になるのではないかと感じさせられた。
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