乗り心地を考慮したエレベーターのモデリング:1Dモデリングの勘所(19)(3/3 ページ)
以上の知見を基に、ひとを考慮したエレベーターの乗り心地のモデルを考えると図7となる。
図7 エレベーターの乗り心地のモデリング[クリックで拡大]
すなわち、エレベーターのカゴが巻き上げ機のモーターにより、巻き上げられる。カゴと逆側にはカウンターウエイトが取り付けられている。ロープは長さ方向に剛性を有しており、かつロープの長さは時々刻々変化するため、ロープの剛性も変化する。また、巻き上げ機も起動から停止まで非定常挙動をするため、トルク変動を生じ、これがカゴへの入力となり、カゴが振動する。カゴの床面の振動がカゴ内にいるひと(この場合は、大人の男性、女性と子供の3人)への入力となり、振動を検知することになる。なお、前述の理由により、加速、減速時の速度変化を滑らかに行うため、速度変化は正弦波状に変化するものとして定義した。図8に走行パターンを直線速度変化と対比させて示す。
図8 乗り心地を考慮した走行パターン[クリックで拡大]
そして、図7を運動方程式で表現すると下記となる。
式2 図7を運動方程式で表現すると[クリックで拡大]
図7のモデルを実際に解くと、カゴの振動特性は図9となる。図7の座標は移動座標系であるため、実際の振動はカゴ座標系の振動(左図)とカゴの絶対座標系での振動(右図)の和となる。
図9 カゴの振動特性[クリックで拡大]
一方、大人の男性、女性、子供の3人が感じる振動(乗り心地)は図10となる。減速時に系の固有振動数が男性、女性の固有振動数に近くなるため、男性および女性の感じる振動は子供に比べて大きい。このように、ひとの条件(この場合は体格)によって乗り心地が異なることが分かる。
図10 ひとにより異なる乗り心地(振動加速度)[クリックで拡大]
次回は、エアコンのモデリングについて紹介する。 (次回へ続く)
⇒連載バックナンバーはこちら
- 1Dモデリングの方法にもさまざまなアプローチがある
「1Dモデリング」に関する連載。連載第4回では、本題である1Dモデリングの方法を取り上げる。まず、1Dモデリングの方法には大きく「モデル生成」「低次元化モデリング」「類推モデリング」の3つのアプローチがあることを説明。特に本稿では1Dモデリング固有の考え方としての類推モデリングについて詳しく解説する。
- 0Dモデリングとは? 理論・経験に基づく理論式・経験則が究極の1Dモデリング!?
「1Dモデリング」に関する連載。連載第3回は、理論・経験に基づく理論式・経験則が究極の1Dモデリングであることを、0Dモデリングの定義、3Dモデリングとの関係、幾つかの事例を通して説明する。また、理論・理論式を考えるに当たって重要な“単位”に関して、なぜ単位が必要なのかその経緯も含めて紹介する。
- 1Dモデリングとは? モデリングをさまざまな視点から捉えることで考える
「1Dモデリング」に関する連載。連載第2回は、モデリングをその表現方法から2種類の“3つのモデリング”に分けて考える。次に1Dモデリングが必要となる背景について、1DCAEとMBDという2つの製品開発の考え方を紹介し、これらと1Dモデリングの関係を示す。さらに、リバース1DCAEと1DCAEを通して、より具体的に1Dモデリングのイメージを明らかにする。以上を通して、最後に“1Dモデリングとは”について考察する。
- モデリングとは何か? 設計プロセスと製品設計を通して考える
「1Dモデリング」に関する連載。連載第1回は、いきなり1Dモデリングの話に入るのではなく、そもそもモデリングとは何なのか? について考えることから始めたい。ものづくり(設計)のプロセス、製品そのものを構成する要因を分析することにより、モデリングとは何かを明らかにしていく。
- なぜ今デライトデザインなのか? ものづくりの歴史も振り返りながら考える
「デライトデザイン」について解説する連載。第1回では「なぜ今デライトデザインなのか?」について、ものづくりの変遷を通して考え、これに関する問題提起と、その解決策として“価値づくり”なるものを提案する。この価値を生み出す考え方、手法こそがデライトデザインなのである。
- デライトデザインとは? 3つのデザイン、類似の考え方を通して読み解く
「デライトデザイン」について解説する連載。第2回では、デライトデザインとは? について考える。まず、設計とデザインの違いについて触れ、ユーザーが製品に期待する3つの品質に基づくデザインの関係性にも言及する。さらにデライトデザインを実行する際に参考となる考え方や手法を紹介するとともに、DfXについて説明し、デライトデザインの実践に欠かせない要件を明確にする。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.