図3左図(参考文献[2])に、エレベーターの構造を示す。ひとが(場合によっては荷が)乗るカゴはロープを介して、モーターで巻き上げる構造になっている。通常、モーターは建物上部(屋上)に設置され、モーターを駆動するための制御盤とともに、機械室内に設置される。モーターの必要トルクを抑えるために、カゴの反対側に重り(カウンターウェイト)が付いている。一般的に、標準積載量のときのカゴ質量と重り質量は同等にする。また、カゴと重りがぶつからないように反らせ、滑車(そらせ車)で重りの位置をカゴの位置からずらしている。
エレベーターは、カゴをぶら下げているロープの長さをモーターで制御することにより、カゴを上昇、下降させる。図3右図にその様子を示す。ロープは長さ方向に伸縮するため、この方向にばね定数を有することになり、ロープの断面積をA、ロープ材料の縦弾性係数をE、ロープの吊り下げ長さをlとすると、そのばね定数は、
となる。すなわち、吊り下げ長さは時間とともに変化するので、時間の関数となる。このことはエレベーターのカゴ位置により、時々刻々系の固有振動数が変化することを意味する。また、エレベーターでは起動停止を頻繁に繰り返すため、起動停止の際に加速度(速度変化)が発生し、これが振動を誘発する要因となる。そのために、緩やかな起動停止を行うように走行パターンを工夫している(参考文献[3])。
ひとが振動(加速度)を検知するセンサーは、半規管の根元にある耳石器である(参考文献[4])。その大まかな位置を図4に示す。耳石器は球形嚢(きゅうけいのう)と卵形嚢(らんけいのう)から構成され、球形嚢は上下方向の振動を、卵形嚢は水平方向の振動を検知する。
エレベーターの乗り心地においては、多くの場合、振動は足元から伝わってくる。従って、図5に示すように、ひとを頭部付近に集中質量を有するMCKモデルで表現することは妥当と考えられる。
そこで、図1の知見に沿って、最初に、成人男性(体重60kg、身長170cm)の固有振動数が5Hz、減衰比が0.2となるように、MCKの各値を決める。ここで、等価質量を体重の3分の1と仮定して、等価剛性、減衰定数を算出すると、それぞれ、2万N/m、250Ns/m2となる。次に、振動はひとの身長方向に発生する(縦振動)と考え、ひとの比重、弾性係数はひとに依存しないと考えると、図6左図に示すように、等価剛性は断面積に比例して、長さに反比例する。なお、断面積は体重を身長で除した値に比例する。この考え方にのっとって、成人女性(体重50kg、身長155cm)、子供(体重30kg、身長130cm)の等価剛性を算出すると図6右表のようになる。ここで、減衰定数は体格に依存しないと考えると、固有振動数、減衰比は表の通りとなる。
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