トヨタ自動車は2023年4月1日付で発足する新体制を発表した。
トヨタ自動車は2023年2月13日、同年4月1日付で発足する新体制を発表した。
新社長に就任する佐藤恒治氏を、中嶋裕樹氏(ミッドサイズビークルカンパニーとCVカンパニーのプレジデント)と宮崎洋一氏(Chief Competitive Officer)が副社長として支える。また、新任のChief Branding OfficerとしてSimon Humphries氏(クルマ開発センター デザイン領域 統括部長)、同じく新任のChief Production Officerの新郷和晃氏(コンパクトカーカンパニープレジデント)も脇を固める(いずれもカッコ内は現職)。
上記4人に加えて北米本部長の小川哲男氏や中国本部長の上田達郎氏も執行役員に就任し、商品と地域を軸にした経営を推進する。
現在、執行役員・副社長を務める近健太氏(CFO)、前田昌彦氏(CTO)、桑田正規氏(Chief Risk Officerなど)の3人は現職を離れる。「これまでトップの間近で経営を学んできた副社長の3人は、重点3事業の陣頭指揮を現場でとる」(佐藤氏)という方針だ。
近氏はウーブン・プラネット・ホールディングス専任のCFOに就任予定だ。前田氏はアジア本部長として新興国らしいカーボンニュートラルやCASE技術の実装などの地域戦略を、桑田氏はレクサスブランドの電動化を推進する。桑田氏はレクサス車の生産拠点であるトヨタ自動車九州の副社長も務める。
新社長に就任する佐藤氏は、新体制のテーマは「継承と進化」であると述べた。商品と地域を軸にした経営を実践しながら、「モビリティカンパニーへのフルモデルチェンジ」に取り組む。現社長の豊田章男氏が掲げてきた「もっといいクルマづくり」「町いちばんのクルマ屋」をベースに、「実践のスピードを上げていく」(佐藤氏)としている。
モビリティカンパニーへの変革に向けて、電動化、知能化、地域ごとの多様化の3つのテーマに注力する。電動化に関しては引き続き、地域のエネルギー事情に合わせて多様な選択肢を用意する「マルチパスウェイ」を推進する。
佐藤氏は社内カンパニーのレクサスインターナショナルでプレジデントを務めてきた中で、「トヨタらしい、レクサスらしいEV(電気自動車)を作る準備を進めてきて、自分たちが目指すEVの在り方が見えてきた。機が熟した今、これまでとは異なるアプローチでEVの開発を加速させる」(佐藤氏)と述べた。これまでに発表した電動化戦略を大きく変更するものではないとしている。具体的には、2026年に向けて電池やプラットフォームなどを“EV最適”にした次世代EVを開発する。足元のラインアップ拡充も進める。
これに向けて、レクサスブランドがけん引役となって、“EVファースト”の発想でモノづくりから販売やサービスまで事業の在り方を変えていく。特にモノづくりの変革に力点を置く。サプライヤーに対しても、「クルマの形が変わっても、仕入先の努力や品質、原価の作り込み、挑戦がトヨタの競争力につながっていることは変わらない。もっと深いコミュニケーションをとりながら、EVに取り組んでいく必要がある」(佐藤氏)と期待を寄せる。
EVの需要が先進国中心であり、レクサスブランドのカバーエリアと重なることからレクサスブランドをけん引役に据える。レクサスブランドを通じて、トヨタらしいEVのイメージを作る狙いもある。EVの技術開発はレクサスブランド、トヨタブランドに関係なく進めていく。EVに関する事業計画は、新体制発足後に改めて詳細を発表するとしている。
また、アジアのカーボンニュートラル実現に向けたパートナーシップや連携、電動化やモビリティの実証にも力を入れていく。
宮崎氏は「これまで、『町いちばん』に向けて地域本部がマーケットの声を聞き、販売店と一緒にユーザーの信頼を積み上げてきた。モビリティカンパニーに向けた変革やカーボンニュートラルの実現に向けた取り組みにおいては、これまで以上に各国の事情に合わせて、グローバルヘッドクオーターが密に意思疎通をしながら実行力を高めていく連携が必要になる」と語った。
知能化に関しては、ウーブン・プラネット・ホールディングスが開発するソフトウェア基盤「Arene」が中心となる。これまで以上にトヨタとウーブン・プラネット・ホールディングスが一体となってAreneの開発を加速させるとともに、スマートシティー「ウーブンシティー」での実証実験を強力に推進していくという。また、ソフトウェアで何をするのかという出口の議論を深め、車両の情報を生かした高度な統合制御による燃費改善や運転感覚の味付け、安全運転支援などのパーソナライズの他、販売店との連携やアプリを通じた新サービスの提供につなげていく。
佐藤氏は「クルマ屋にしかできない知能化がある。クルマの中に流れている膨大な情報には、クルマ屋にしか活用できないものがたくさんある」と述べた。
EVの開発について佐藤氏は「われわれはクルマ屋なので、いいクルマに触れるうれしさや操る楽しさで多くの人を笑顔にしたい。奇をてらったり制御でごまかしたりしない、素性がよく味わい深いクルマでなければという思いがずっと原点にある。EVをどのように作るか、味や必要な要素は何か、研究してきた中で、内燃機関を前提としたクルマづくりとは少し違うアプローチが必要だと多くの学びを得た。熱が常に存在するエンジン車に対し、EVは熱を作り出すことも考える必要がある。また、電気が持つ可逆的、不可逆的なエネルギー変化の特性を十分に理解することも重要だ。空力の影響もだいぶ違う。知見が手の内に入ってきたことを踏まえて、EVに最適なクルマづくりをもう1歩踏み込んでやっていく必要があると考えている。目指すべき在り方や事業構造が見えてきたので、それを実践していく。他社への対抗手段としては捉えていない」とコメントした。
「EVで他社に後れを取っているのではないか」という質問に対しては、足元からCO2を減らすことが重要であり、社内ではEVの開発も進められていると回答した。
「トヨタの電動車比率はグローバル平均よりもはるかに高い。EVの取り組みが遅いといわれることは半分くらいがコミュニケーションの問題ではないか。社長の豊田氏はモータースポーツのイメージが強いかもしれないが、現場でEVの開発に関する対話も結構やっている。足元から普及期まで、それ以降の本格普及期と、セクションごとに分けてEVの在り方や対応を考えている。全体の戦略は今後オープンに話していきたい」(佐藤氏)
日本国内の生産300万台について、新郷氏は「重要な数字で、大きなサプライチェーンと雇用、生活を守る意味合いもある。日本のモノづくりに必要な要素技術や高度な技能を守っていく上でも300万台のボリュームは守っていきたい」とコメントした。
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