中外ライフサイエンスパーク横浜設立の大きな狙いの1つは、コミュニケーションの活性化と、それによる新たなイノベーションの創出促進だ。そのために、「スパイン(Spine、背骨の意)」と呼ばれる長さ300mの渡り廊下を2階に設置した。
出社および退社時やデスクワークを行う居室棟と実験棟を行き交う際に、研究者やスタッフは必ずスパインを通る構造になっている。「予期しない人たちと出会うことで、“以前話していた件はどうなっているのか”など、今まで会話してこなかった研究者同士が自由に会話でき、色んなコミュニケーションが起こる場にしたい」(中外製薬 執行役員 研究本部長の飯倉氏)。
スパインにはさまざまな仕掛けが盛り込まれている。人の通行量の多いエリアには“たまたま使い”というコンセプトで簡単な打ち合わせや軽作業がしやすいよう、テーブルやベンチ、カウンターなどを通路脇に配置し、研究者同士の会話や活発な議論を生み出す。
また、スパインの奥にあたる通行量が少ないエリアは“わざわざ使い”として、半個室のデスクなどを多く設けて目的性の高い機能を持たせている。その他、会議室や和室、トレーニングルームも設置した。
コロナ禍でオンライン会議が浸透した一方で、リアルなコミュニケーションの利点を実感した。「(同グループの)スイスのロシュ、米国のジェネンテックともオンライン会議が基本になった。互いに状況が分かり、すごく便利だが、イノベーションを生み出すのは難しいと感じる場面もあった。オンライン会議では互いに異なる意見を持っていると建設的な議論をするのが難しい。対話の本当の力は、互いに思ってもいない結論に至れることだ。それこそが新しいアイデアを生んだり、研究の方向性を決めたり、お互いの理解につながる。その思ってもいなかった結論を生むためには対面の力は大きい」(飯倉氏)。
ロボットを活用した実験の自動化(ラボオートメーション)も進める。
実験棟には試薬の自動搬送システムを導入した。研究者が使いたい試薬をPCでオーダーすると、化学棟にある自動倉庫から試薬がコンテナに積み込まれ、スパインの床下を走るレールに沿ってコンテナごと実験棟に運ばれ、垂直搬送装置で各階のステーションに届けられる。到着すると研究者の端末に通知が届き、研究者がステーションにIDカードをかざせば、オーダーした試薬が入った棚が開く仕組みだ。
既に富士御殿場研究所、鎌倉研究所では創薬研究を効率よく確実、大量に実施する実験機器の自動化を進めてきたが、中外ライフサイエンスパーク横浜にはこれら自動化した実験機器間をより柔軟に連携する自走式モバイルロボットを導入する。そのため実験棟は自由に機器を配置し、その機器間をモバイルロボットが行き来できるようスペースに余裕を持った設計にした。既に鎌倉研究所で試験導入を行っている。その他、これまで自動化が難しかった工程や作業のロボットを用いた自動化も目指す。
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