3Dプリンタの性能に合わせた設計(DfAM)ができるデジタルエンジニアを育成するデジタルエンジニアの重要性と育成のコツ(4)(2/2 ページ)

» 2022年10月20日 08時00分 公開
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3Dプリンタの性能や特徴に合わせた設計

 3Dプリンタは何でもパーフェクトにできる万能の機器ではありません。どの機種の3Dプリンタにも得意な形状、不得意な形状がありますので、デジタルエンジニアは「DfAM(Design for Additive Manufacturing/付加製造のための設計)」と呼ばれる3Dプリンタの性能に合わせた適正な設計力が求められます。

 製品に取り付けるための部品を3Dプリンタで製造した際、期待通りの強度や精度が出せずに満足できないことがあるかもしれません。実は、切削加工やプレス加工、射出成形といった従来工法で作る形状と全く同じカタチのままでは、3Dプリンタを最大限に活用した設計とはいえず、その効果も限定的なものになってしまいます。

 3Dプリンタの特徴である積層造形による重力の影響や表面/内部の状態などを理解し、適正な形状を考えるDfAMのスキルを身に付ける必要があります。

 最近では、適正に3Dプリントできるかシミュレーションできるソフトウェアもありますので、導入を検討してみるのもよいでしょう。また、トポロジー最適化やジェネレーティブデザインなど、コンピュータが最適な形状を提案してくれる技術やラティス構造の3Dモデルを作成するソフトウェアも日々進化していますので、3Dプリンタと一緒に活用してみるのもよいでしょう。

3Dプリンタを活用できる人材を育成するコツ

 DfAMのスキルを身に付けるためには、実際にいろいろなパターンを自分で試してみることが何よりも重要です。Webで検索しても、あまり情報は得られないかもしれませんが、海外のWebサイトや3Dプリンタメーカーに相談することでヒントが得られるかもしれません。また、「3Dプリンタだけで作る」という発想を変えて、後処理(2次加工)として切削加工を施して高精度なモノを作るなど、技術を組み合わせて実現の方法を模索してみるのもよいでしょう。3Dプリンタで樹脂形状を作成し、金属の部品を圧入や接着して使用する例もあります。

 複雑な形状を造形するのが得意である3Dプリンタの特徴を生かして、複数の部品を1つに統合する事例は多くあります。製品の組み付け時間の短縮や在庫管理コストが削減できる他、トポロジー最適化やジェネレーティブデザインを活用した軽量化なども取り入れることができます。

 また、別のアプローチとして、あえて形状を分割することで造形時間の短縮やコスト削減を図ったり、造形品質を向上させたりといった考え方もありますので、目的に応じていろいろと試行錯誤してみるとよいでしょう。

 3Dプリンタで作る部品の品質、コスト、時間だけを、従来工法と比較するとメリットを感じられない場合があるかもしれません。しかし、設計から製造、組み立て、保守管理といったプロセス全体として考えた場合には、従来よりも大きなメリットが得られる可能性があります。単純に出来上がった部品だけで判断するのではなく、評価する視点を適切にもって、3Dプリンタの活用効果を見定めるべきだと考えます。

 3Dプリンタを1人に1台与えるのは極端な例ですが、より良い製品を生み出し、品質向上、コスト削減、納期短縮を実現し、次につながるイノベーションを創出できる、そんな製品開発の現場を目指すのであれば、好きなタイミングで3Dプリンタを使用できる環境を構築すべきです。トライ&エラーを何度も繰り返すことで設計力は向上します。特に、新人や若手の設計者にとって、3Dプリンタは失敗を経験して成長できる有効な教育ツールになり得ます。

 決して初めから、高価な3Dプリンタである必要はありません。安価な3Dプリンタから導入して活用していくというアプローチでもよいでしょう。受託造形サービスの利用は非常に有効ですが、サービスに依存し過ぎてしまうと社内に3Dプリンタの活用ノウハウがたまりませんので、自社で安価なものでもよいので3Dプリンタを保有し、いろいろとトライできる環境を整えることをオススメします。安価な3Dプリンタの場合、精度や品質は落ちますが、材料費も安く、使い方によっては、デザイン検証だけでなく、組み立て性やはめ合いなどの設計検証にも活用できます。積層方向やサポート材の付け方による影響など、3Dプリンタの基本概念を十分に学ぶことが可能です。

積層方向とサポート材の関係のイメージ図 図3 積層方向とサポート材の関係のイメージ図[クリックで拡大]


 今回は、3Dプリンタの活用にフォーカスし、デジタルエンジニアに求められる設計力の重要性について紹介しました。3D CADで3Dモデルが作成できるようになったら、次は3Dプリンタでいろいろとパーツを製作してみましょう。ぜひ、デジタルエンジニアのために“遊び場”を作ってあげてください。そこから創造的な発想が生まれ、新たなイノベーションにもつながるかもしれません。そうした“わずかな余裕”が、デジタルエンジニアを次のステージへと成長させてくれます。 (次回へ続く

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筆者プロフィール

小原照記(おばら てるき)

いわてデジタルエンジニア育成センターのセンター長、3次元設計能力検定協会の理事も務める。3D CADを中心とした講習会を小学生から大人まで幅広い世代の人に行い、3Dデータを活用できる人材を増やす活動をしている。また企業の困り事に対し、デジタルツールを使って支援している。人は宝、財産であると考え、時代に対応する、即戦力になれる人財、また、時代を創るプロフェッショナルな人財の育成を目指している。優秀な人財がいるところには、仕事が集まり、人が集まって、より魅力ある街になっていくと考えて地方でもできること、地方だからできることを考えて日々活動している。


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