走行距離に対する不満はあまり出ていない。サクラのWLTCモードでの走行距離180kmで、軽自動車ユーザーの1日における走行距離分布のうち94%をカバーできている。また、厳しい気候条件の季節でも走行距離100kmは確保する。100kmでも1日当たりの走行距離分布で80%をカバーできる試算だ。
現在、ディーラーに来店する前にWebサイトで下調べするユーザーが増えており、サクラが目的の来店客も走行距離について把握した上で来店しているという。その結果、「それほど距離を走らないし、ガソリンも高いから」とサクラの購入を決断する。サクラを目的に来店したものの、走行距離に不安があって軽自動車にこだわりがないという人が、リーフを検討、購入するケースも出ている。
今後も、サクラを体感できる機会をさまざまな形で提供し、軽乗用EVで他の自動車メーカーより先行したアドバンテージを生かしていく。自治体と協力して平日は公用車として使い、休日は一般向けに貸し出せるようにしていく他、カーシェアリングサービスへの導入、試乗イベントなど話題づくりに力を入れる。
日産自動車のマーケティング担当者はサクラによってEVに対するハードルが下がってきたとみている。リーフに対して人々が持っていたハードルには、EVに対してよく指摘される走行距離への不安だけでなく、「外での充電が煩わしいという印象」「価格の高さ」があったという。
価格については先述の通り、軽自動車のセグメントで、補助金を含めれば他社の軽スーパーハイトワゴンとそん色ない値段に抑えられたことがハードルを下げた。リーフにも補助金はあったが、同じ車両サイズでEV以外のパワートレインのモデルと比べると価格面で有利とはいえなかった。
EVは外で充電するものだという印象も、リーフを販売する中で生まれたハードルだ。その印象をつくったのは充電を含むEV向けサービスプラン「ZESP2(ゼロエミッションサポートプログラム2、新規受け付けは終了)」だった。ZESP2は月々2000円で、日産の販売店や高速道路など公共の場所にある急速充電器が無料で使い放題だったため、外での充電習慣が定着した。それが、EVを検討した人に「外での充電方法が分からない」「充電渋滞や待ち時間が嫌だ」とネガティブな先入観を与えてしまった。
サクラは、「EVは外で充電するものだ」という印象を打破し、自宅充電について改めて訴求していく役割も担っている。これまでは、外での充電にネガティブな先入観を持つ人や、そもそもEVに関心がなく家で充電できることを知らない人も多かった。手に届きやすい価格のEVを発売したことで、自宅での充電を現実的にイメージしてもらう機会になった。また、現在はテレビCMなどを通じて、EVは自宅で充電できること、自宅充電であれば100%まで充電が可能であることをアピールしている。
自宅充電と併せてV2H(Vehicle to Home)への関心も高まっている。EVを蓄電池として使った災害への備えや、太陽光発電とセットにした電気の自給自足などが目的だ。今後、住宅メーカーなどと協力して、家づくりの段階からEVやV2Hのある生活を想起しやすくする提案に力を入れていきたい考えだ。
サクラは日産自動車の軽のフラグシップと位置付けられている。デイズ、ルークスでも運転支援機能「プロパイロット」などの先進装備を充実させてきたが、さらにワンランク上の軽自動車を目指す上では、EVであることが必須だった。軽自動車に積めるモーターは規格で限界がある。また、軽規格の中で考えると、e-POWERのシステムは軽にとって重く大きい。重量によって走行距離が伸びなくなり、サイズの大きさによって室内空間を確保しづらくなる。軽自動車を電動化によって進化させるには、EVでなければならなかった。
サクラの発売をきっかけに、スライドドア付きの軽スーパーハイトワゴンでもEVを出してほしいという声も寄せられているという。ただ、車重や空気抵抗がネックとなり、1回の充電で走行できる距離を確保するのが難しい。走行距離のためにバッテリー容量を増やすとさらに重量が増加するため、走行距離とのバランスが取りにくい。重量エネルギー密度を2倍に向上した全固体電池が実用化できれば、EVの車両タイプが多様化していくことも期待できそうだ。
アリア、リーフ、サクラの“EV3兄弟”にもう1台加わるとして、どんな車両タイプが販売戦略上重要になるのか。「リーフはファーストカー、アリアはフラグシップ、サクラはEVに初めて乗るきっかけにもなるセカンドカーだ。3兄弟だからこそ、さまざまな顧客を取り込める。今回、サクラをトライアルとして法人が購入するケースもあり、軽商用EVを求める声は大きい。具体的な商品計画は明かせないが、2人乗りの軽商用バンのEVは検討中だ。軽トラのEVを求める声もある」(日産自動車のマーケティング担当者)
軽ではなく登録車の商用EVの需要も高まっている。「『e-NV200』は世に出るのが早すぎた。生産終了間近になって、EVを蓄電池として使うBCP対策で法人需要が盛り上がり、中古車価格も上昇した。リーフでは小さく、バンタイプのEVが欲しいというニーズだった。また、e-POWERのミニバンがあるが、ファミリーユースのEVもあっていいのではないか。商用車もミニバンも、EVにする際には走行距離と電池容量のバランスが課題になるだろう」(日産自動車のマーケティング担当者)
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