今回のメッセは全体として出展数が減少しましたが、その中でデジタル展示のみの企業も含め、日本からは10社超が出展しました。個々の日本企業が展示した最先端のソリューションは刺激的でした。海外子会社がエルメス賞を獲得した住友重機械工業のブースは初日から盛況でしたし、その他の企業もそれぞれユニークな取り組みで注目を集めていました。
水素ステーションで活用される高圧水素用のOリングを展示した高石工業は、次世代エネルギーとして注目される水素関連製品の展示品に加えて、同社社長である高石氏自らが合気道の道着を着て、講演や展示説明を行いました。毎年恒例のこのパフォーマンスによって、現地では「高石工業の社長=道着」というブランドが出来上がっているようです。そのおかげで会場では気軽に話しかけてもらって、すぐに商談に入れるとのこと。トップが前のめりな姿勢を見せる会社に好感を持つのは、万国共通といえるでしょう。これは大きなメリットだなと感じました。
日本ゼオンはカーボンナノチューブのメーカーとしてロビー活動に取り組むことを出展の最大の狙いとしていました。欧州では「アスベストのように廃棄時に問題が起こるのでは」といった不安から、カーボンナノチューブを規制する動きも出てきているようです。日本ゼオンは、反対派にこうした不安が科学的根拠に欠けると伝えて、日本発の材料の価値を改めてアピールしていくことを目指しています。
ロビー活動は欧州に根を張るだけでなく、規制に対する息の長い働きかけが求められます。ハノーバーメッセも活用する粘り強さは、他の日本メーカーも参考にできるかもしれません。
今回のメッセの期間中、ドイツメッセ 日本代表の竹生学史氏に話をうかがう機会がありました。日本企業向けの有料オンラインツアーは活況でしたが、出展企業があまり多くない点を気にされていました。実際、お隣の国である韓国は、日本の日本貿易振興機構(JETRO)に当たる、機関大韓貿易投資振興公社(KOTRA)が韓国パビリオンを設置しており、多数の大手、ベンチャー企業が出展していました。ロックダウン政策の影響で中国企業の出展も減ると予想されていましたが、上海市以外の浙江省や深センにゆかりのある企業が多数参加しました。
日独経済フォーラムにおけるドイツと日本の政策を中心とした意見交換も大事だとは思いますが、産業見本市の本丸はやはり、各社の出展内容と、企業間ネットワーキングの形成にあると筆者は考えます。その点で、メッセの開催期間が1カ月延期されたこと、出入国に当たってワクチン接種やPCR検査などのさまざまな手続きがあることを勘案しても、日本企業の出展数の少なさは気に掛かります。
日本企業の参加は、国際標準のルール作りという観点から見ても大切ではないでしょうか。EUは人口約4億5000万人で、GDPも約15兆USドルを持つ政治・経済連合体です。脱炭素のルール作りにおける影響力は日本と大きく異なります。国が音頭を取って国際標準のルール作りに取り組むだけでなく、日本ゼオンのように、EUが進める国際標準づくりに働きかけを行う企業のロビー活動も同じくらい重要だと筆者は考えます。
昔から欧州企業は、自社の強みが生きる産業分野に対して、必要な仕組みの全体像を提案し、必要な機能群を段階的に提示する、というビジネスを展開してきました。脱炭素を中心に、今後の産業全体に必要な仕組みを提案し続ける欧州と、さまざまな意味で“自国らしさ”が前面に出ていた日本の違いを感じた、ハノーバーメッセ2022の4日間でした。
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