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» 2022年06月08日 07時00分 公開

通訳がいれば安心!? 実はあまり通じていない中国人通訳への日本語リモート時代の中国モノづくり、品質不良をどう回避する?(3)(3/3 ページ)

[小田淳/ロジ,MONOist]
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仕事の情報は口頭だけで伝えない 〜資料に書き込みながら話す〜

 次に、情報の伝え方に関するエピソードを2つ紹介する。1つ目は、連載第2回で登場した三浦さんの話だ。三浦さんは、中国に長期出張して中国企業に新しいシステムを導入する仕事をしていた。中国企業には日本語の上手な3人のリーダーがいて、その3人に日本語でシステムの導入に関する情報を伝えながら業務を進めていた。その情報の伝え方は、導入方法の概要をPowerPointで作成し、そのコピーを3人に配布して説明を日本語で行うというものであった。そして、PowerPointに記載されていない詳細の情報は、別途口頭で説明をしていた。

 3人のリーダーは、その口頭の説明を赤ペンでPowerPointの紙に書き込み、理解しているようだった。日本の会議ではとてもよくある風景だ。だが、しばらく一緒に仕事を進めているうちに、「おや?」と思うことが度々あった。確かに口頭で説明し、3人のリーダーはちゃんとそれを赤ペンでメモを取り、理解していたように見えた。しかし、実際はというと、説明内容を間違って理解していたり、正しく実行しなかったりと、「確かにちゃんと伝えたバズなのに……」と腑に落ちないことが多くあった。

 三浦さんは、中国人と一緒に仕事をするのは初めてであり、3人のリーダーとの日常会話は特に問題なくできていたので、普通に日本人同士で会話をするように口頭で話を進めていた。そこに問題があったのだ。3人のリーダーは、三浦さんの口頭の説明をそれぞれの日本語レベルで理解し、PowerPointにメモをしていた。そのメモの内容を三浦さんは確認せず、「メモしているから理解している」と安心していたのだ。当然のことながら誤認識は生じ、それが分からないまま会議は進んでいたのであった。

 このようなときは、次のように会議を進めるとよい。PowerPointの内容をプロジェクターで投影し、口頭で説明する必要のある内容はPowerPointに書き込み、それを一緒に見て理解しながら会議を進めるのである。

 PowerPointに書き込むのは三浦さんであってもよいし、3人のリーダーの誰か1人であってもよい。後者であれば、3人のリーダーが理解していることを確認しながら会議を進められる。PowerPointに追記する必要がないように、全て詳細までPowerPointに書き込んであるのがベストであろう。もし、ホワイトボードを使うのであれば、ホワイトボードに書き込みながら会議を進める。ここで大切なのは、PowerPointやホワイトボードに書いた内容が依頼や取り決めの“全て”であるということだ。

仕事の情報は口頭だけで伝えない 〜電話だけで要件を伝えない〜

 もう1つのエピソードを紹介する。筆者が成形メーカーを訪問して、金型の打ち合わせをしたときの話だ。日本語の上手な通訳を介して、約3時間にわたって打ち合わせを行った。金型の打ち合わせは、図面を一緒に見ながら行う。この打ち合わせは、通訳の日本語レベルが高かったこともあって、何も問題なく終えられた。

 筆者はタクシーで帰社する途中、ある点を伝え忘れたことに気が付いたため、忘れないうちにと思い、すぐに先ほどの通訳に携帯電話で電話をかけた。「先ほどの部品の3つの穴の1番左の穴の下にあるリブの高さを10mmから15mmにしてください」と言ったのだ。そうしたところ、日本語通訳は次のように返事をしたのであった。「小田さんの言うことが全然分からないので、後からメールください」。

 何も問題なく、3時間も通訳をしてくれた人が「全然分からない」と言ったことに、筆者は驚いた。筆者の言い回しが「〜の〜の〜の」と長く続き、分かりにくい表現になっていたのがまずよくなかったのだろう。また、一緒に図面を見ないで話をしているので、分かりにくいのは確かである。加えて、車内であるためエンジンの音や通話中のノイズもあり、分かりにくかったのだと思う。

電話だけで要件を伝えない 図6 電話だけで要件を伝えない[クリックで拡大]

 この出来事があってから、筆者は基本的に仕事の内容は電話だけで伝えないことにしている。たとえ電話をしても、後から同じ内容をメールで送っている。電話をする内容は「荷物は届きましたか?」や、「送ったメールを見ましたか?」などである。後者の場合は、仕事の内容を口頭の説明(電話)とメールの文章の両方で伝えることができるので有用である。また、「メールを早く見てほしい」という催促にもなる。ここで大切なのは、電話だけで仕事の内容を伝えるのは厳禁ということである。 (次回へ続く

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筆者プロフィール

小田淳

中国モノづくり/製品化のイロハ支援室 ロジ代表
小田淳(おだ あつし)

上智大学 機械工学科卒業。ソニーに29年間在籍し、モニターやプロジェクターの製品化設計を行う。最後は中国に駐在し、現地で部品と製品の製造を行う。「材料費が高くて売っても損する」「ユーザーに届いた製品が壊れていた」などのように、試作品はできたが販売できる製品ができないベンチャー企業が多くある。また、製品化はできたが、社内に設計・品質システムがなく、効率よく製品化できない企業もある。一方で、モノづくりの一流企業であっても、中国などの海外ではトラブルや不良品を多く発生させている現状がある。その原因は、中国人の国民性による仕事の仕方を理解せず、「あうんの呼吸」に頼った日本独特の仕事の仕方をそのまま中国に持ち込んでしまっているからである。日本の貿易輸出の85%を担う日本の製造業が世界のトップランナーであり続けるためには、これらのような現状を改善し世界で一目置かれる優れたエンジニアが必要であると考え、研修やコンサルティング、講演、執筆活動を行う。

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