しかし、これらの言葉に注意をしながら日本語通訳と会話をするのは難しい。いちいち気にしていては仕事が進まない。そこで最も簡単で、有効な対応方法を紹介する。それは「子供と話すように話す」ということだ。一般的に、日本語検定1級を持つ日本語通訳の用いる語彙(ごい)数は約1万個といわれており、日本人の小学校6年生が用いる語彙数は1万〜1.5万個といわれている。だいたい同じ語彙数なのだ。
もう1つの方法としては、「文章に書くように話す」である。文章に書くと口語調がなくなり、文章の構成にも気を付けるようになり、理解しにくい長い文章がなくなるからである。
次に、話し方で注意すべきポイントを2つ挙げる。1つ目は、1文章1内容で話すということだ。
次に浅草行きの電車が来るのでそれに乗り換えてください。
この一連の文章には、次の3つの内容が含まれている。それらは「次の駅で降りてください」と「浅草行きの電車が来ます」、そして「それに乗り換えてください」である。一続きの文章で話されてしまうと、それを聞いた中国人は、例えば「浅草行き」という言葉が理解できなかった場合、その後の「電車が来るのでそれに乗り換えてください」しか理解できないかもしれない。もしかすると焦ってしまい、全部聞き取れなくなってしまう場合もある。そこで3つの文章に分けて話せば、相手が理解しているかを確認しながら話すことができ、相手も分からない言葉があれば、その部分だけを聞き直せる。
2つ目は、誘導的な質問の仕方はしないということだ。
上下の順でビスを留めていますか?
このように質問したとする。もし、「上下」という言葉が早口で理解できなかった場合、中国人は「ビスを留めていますか?」とだけ理解する。そうすると、その答えはたいてい「はい」になってしまう。正しい回答が得られない場合があり、「確かに○○と言ったハズ」となりかねないのだ。
中国が台頭してくる以前、日本人が海外でビジネスをするといえば、欧州や米国が多かった。この場合、日本人は苦手な英語で会話をしなければならず、流ちょうで日本人の英語レベルを超えたスピードで話されてしまうと、日本人は「Oh yes.OK,OK」を連発することになるのだ。「OK」が多い理由は、前述したように、理解できるところだけを理解して返事をするからである。そして後から、「そんなハズじゃなかったのに……」となってしまう。
このようなときには、正しいと思う回答を質問の文章に入れないで質問することだ。質問の内容を理解しているか、理解していないかを同時に確認することもできる。つまり、
ビスを留める順番を教えてください。
と質問すればよいのである。
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