中国ビジネスにおける筆者の実体験を交えながら、中国企業や中国人とやりとりする際に知っておきたいトラブル回避策を紹介する連載。第4回では、中国人との効果的な打ち合わせの仕方、メールや図面、仕様書の書き方の注意点、トラブル回避策について詳しく解説する。
前回の「通訳がいれば安心!? 実はあまり通じていない中国人通訳への日本語」では、中国人の理解しにくい言葉の一例として「反り」を取り上げ、それと併せて理解が難しい言葉の特徴を解説した。そして、理解してもらいやすい話し方として、“子供と話すように話す”“文章に書くように話す”ということ、話す文章のノウハウとして“1文章1内容にする”“誘導的な質問はしない”というポイントを紹介した。また、前提として、仕事では口頭だけで情報を伝えることはせず、“必ず文字化したものと併せて伝える”ことが重要であるともお伝えした。
英語圏での仕事における英会話では、日本人は不得意ながらも自分の英語力を精いっぱい使って対応するしかない。よって、会話が成り立つか成り立たないかは、英語を話す外国人に委ねられてしまう。しかし、日本人が中国で仕事をする場合は、その逆であることを理解する必要がある。中国人の日本語通訳は、その人の持っている日本語力を精いっぱい使って対応するしかなく、会話が成り立つか成り立たないかは、日本人に委ねられている。「あの通訳、言っていること本当に分かっているのかなぁ?」とか、「あの通訳、レベル低いね」などと愚痴ってしまう日本人がまれにいるが、それはとんでもない間違いなのである。
今回は、中国人の日本語通訳との会話に関連し、中国人との効果的な打ち合わせの仕方、メールや図面、仕様書の書き方の注意点、トラブル回避策について詳しく解説する。
中国の企業を訪問して打ち合わせを行うと、出席者がたくさんいて誰が何の役割のために出席しているのかよく分からない場合が多くある。必ず名刺交換をして、出席者の役割を確認しよう。依頼した仕事内容を自社で全てできず協力メーカーに外注している場合など、他社の人が参加していることもあるので、それを把握するためにも大切だ。協力メーカーを把握しておかないと、後からトラブルが起こったときにその原因究明が難しくなる。
打ち合わせが始まる前には、必ずアジェンダをホワイトボードに書くか「PowerPoint」で示しておく必要がある。これは日本でも同じであるが、中国ではより大切だ。例えば、日本語通訳との2人だけの打ち合わせの場合、打ち合わせ開始後に思い付いた案件から話し始めてしまうと、日本語通訳はその案件の担当者にすぐ電話をかけ、「ちょっと待って!」と言い、会議室から出て行ってしまう。数十分後に戻って来て、「その件は、今日の午後からにしましょう」と言う。仕方なく別の案件の話を切り出すと、また電話をかけて出て行ってしまう。この繰り返しでどんどんと時間だけが過ぎていき、出張の限られた時間があっという間になくなってしまうのだ。中国人は、今、目の前にある課題に対して素早い行動をとる国民性があり、トラブルが発生したときなどの対処はとても素早いが、計画的に仕事を進めることは苦手と考える。
打ち合わせは、なるべく日本語通訳と一緒に担当者にも参加してもらうのがよい。その理由は、日本語通訳が担当者に日本人の意思を正確に伝えているとは限らないからである。担当者に毎回参加してもらうことは難しいが、出張最終日のまとめの打ち合わせでは、担当者にも参加してもらおう。
打ち合わせは、書きながら進めるのが基本である。ホワイトボードに書くか、PowerPointに追記しながらでもよい。大切なのは、お互いに文字を見て決めたことを一緒に理解しながら会話を進めるということだ。そして、打ち合わせの最後には、その資料がそのまま議事録となる。つまり、議事録に記載のない内容=取り決めしていない内容だと心得るべきである。
打ち合わせでは、写真や現物、イラストを多用する。面倒だからといって、言葉だけで会話を進めることは避けたい。筆者は、中国メーカーの訪問時には製造現場の写真をとても多く撮っている。その後の打ち合わせで、撮った写真を見ながら言いたいことを確実に伝えるためだ。もちろん、議事録にも添付している。
打ち合わせで「お任せします」の発言は厳禁だ。ある依頼の対応方法に選択肢が2つあった場合、必ずどちらかを選択して依頼しよう。もし、選択肢がなければ、一緒に選択肢を考え、その中の1つを選択して依頼する。あくまでも主導権は、依頼する日本人側にあるのだ。中国人と日本人とは、仕事の仕方や考え方に多少のズレがあることが多い。お任せしてしまって、後から予想してない対応をされてしまうことは避けたい。
日本人は謙虚なため、相手側を気遣い「あなたの都合に合ったやり方でやってください」という意味を含んで「一任します」と言うのであるが、中国人が相手ではそれが裏目に出てしまう。
日本でのWeb会議と同じく、Web会議の特徴を理解しておく必要がある。それはノンバーバルコミュニケーションが伝わりにくいということだ。ノンバーバルコミュニケーションとは、視線やジェスチャー、うなずきなどの言葉で表現しない意思のことである。中国人とのWeb会議では、日本人同士で行うときよりも、より明確な言葉にして意思を伝える必要がある。
Web会議の画面に複数人が映っている場合は、出席者を確認しておこう。筆者の友人の日本語通訳は、出席者署名リストを作成している。Web会議に出席して話を聞いていたという事実を記録で残すことによって、中国人側に責任感を持たせるのである。
PowerPointは事前にメールで送っておき、それに書き込みながら打ち合わせを進める。これも前述と同じく、PowerPointに書いてある内容=打ち合わせの全てだということを忘れてはならない。つまり、“口頭だけの取り決めはなかったに等しい”と考えるべきだ。
セキュリティを気にしない内容であれば、「WeChat」の写真や動画を多用しよう。無料で使えてとても便利だ。製造現場の確認を、これで行うこともできる。現在は、成形機や工作機械の前にカメラを設置したり、製造ラインに沿って多くのカメラを設置したりしている企業は多い。また、金型や部品の打ち合わせのために、会議室に専用のカメラを設置している場合もある。出張費が不要になった分、積極的にカメラを導入しよう。
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