中国人との効果的な打ち合わせ、メールや図面、仕様書の書き方のポイントリモート時代の中国モノづくり、品質不良をどう回避する?(4)(2/2 ページ)

» 2022年07月11日 08時00分 公開
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中国人とのメールのやりとり

 メールの基本は、1つのメールで1つの依頼や質問を書くことだ。1つのメールに複数の内容があると、その中の一部だけしか対応されない場合が多い。文章が長くなると、いくつの内容がメールに含まれているかよく分からなくなってしまうからだ。日本人が英語の文章を読んでも、同じことが言えると思う。どうしても複数の内容を書きたい場合は、箇条書きにするか、別途「Excel」の表を作成して添付するとよい。

 筆者は図3のようなExcelを作成して添付していた。色付けしたセルの箇所に回答を記入してもらう。いくつの回答がほしいのか、相手に理解してもらいやすいのだ。

Excelに箇条書きして、ほしい回答がいくつあるかを分かりやすく伝える 図3 Excelに箇条書きして、ほしい回答がいくつあるかを分かりやすく伝える[クリックで拡大]

 長期的にある取り決めを行うときなど、複数回のやりとりが続く場合は、図4のようなExcelを作成し、回答のほしいセルだけを色付けする。過去のやりとりも見ることができるので、お互いに正確なやりとりが可能となる。

回答のほしいセルだけ色を付ける 図4 回答のほしいセルだけ色を付ける[クリックで拡大]

曖昧な表現の多い図面や仕様書

 仕事のやりとりは、図面や仕様書でも行われるため、そこでの注意点をお伝えする。図5に示した図面で、トラブルや不良品が発生する原因になりやすい表記はどれであろうか。その答えを4つに分類して説明する。

曖昧な表記の多い図面 図5 曖昧な表記の多い図面[クリックで拡大]

 1つ目は、相手側の中国メーカーに判断を委ねる表現である。図5では「〜相当品」と「〜一任」がこれに当たる。相当品とは“似たような部品”ということだ。日本と中国では流通している部品が違うので、相当品も異なる。また、長く取引をしている部品メーカーでなければ、一任してしまうと全く予想外のことをされてしまう恐れがある。図5の場合、相当品に関しては、「相当品」の表記をなくして必要なメーカーとタイプ名を指定する。また、一任に関しては、高さ寸法を記載する必要がある。日本国内で長年取引のある部品メーカーとの間で通用する表記であっても、海外では全く通用しない場合があるということを理解しておくべきだ。

 2つ目は、「あうんの呼吸」に頼った表記だ。「確実に締結」の“確実”とは強度がいくらのことなのか、「目立つキズ」の“目立つ”とはどの程度のことかがこれに当たる。日本の部品メーカーであれば、お互いに同じような感覚を持っているので、このような表記であっても問題が起こることは少なく、もし感覚に差異がありそうであれば、必ず電話で問い合わせがくる。だが、中国の部品メーカーからこのような件で問い合わせがくることはほとんどなく、中国人の感覚で対応されてしまう。

 3つ目は、検査方法に関する指示だ。実は日本でも同じことがいえるのだが、日本の部品メーカーでは「あうんの呼吸」で問題が起こらないように対応してくれる場合が多い。例えば、「反り寸法」の測定方法は図6の3通りあるが、測定方法を指示しないでいると、最も測定しやすい方法で対応されてしまう。その結果、生産を始めてしばらくしてから、反り寸法がスペックから大きくはみ出ている部品が見つかり、製造現場は大混乱に……。そこで、あらためて反りの測定方法を確認し、ようやく「何でこんな方法で測定しているの? 普通○○でしょう!」と問題に気が付くのである。図面に測定方法を表記する、もしくは検査基準書に測定方法を記載してもらうことが必要だ。

反りの測定方法はいろいろあるので、指定する必要がある 図6 反りの測定方法はいろいろあるので、指定する必要がある[クリックで拡大]

中国人は片仮名が苦手

 中国人は、片仮名(カタカナ)が苦手な人が多い。実は、筆者は日本に帰国してからこのことに気が付いた。中国人の友人にWeChatでその理由を聞いてみたところ、もっともな返事が返ってきた。それは「片仮名は一般的に外来語によく用いられるでしょう。日本語を勉強するときに外来語は勉強しないから、片仮名になじみが薄いのです」というものであった。これを聞けば、確かに当たり前の話ではあるが、日本人はなかなかそのことに気付きにくい。

 実際、日本人は図面や仕様書の中で片仮名を使うことが多い。例えば、「キズ」「サビ」「ムラ」などである。日本の漢字と中国の漢字ではやや意味が異なるものや、中国の漢字が日本とは若干異なるもの、また日本語の漢字が難しいものなどがある。しかし、理解できない片仮名を書くよりは、漢字で書くか、もしくは英語で書く方がよりよいと考える。全く理解できない文字があると、その文字は無視されてしまう場合があるからだ。「ナット」など片仮名しかないものは仕方ないが、英語を併記してもよいだろう。

 余談になるが、日本人は公の文書で片仮名を使う習慣があった。これは戦前の文章を見ればよく理解できると思う。図面や仕様書は会社から発行される公文書であるため、片仮名で書かれる習慣が残っているのだと思う。 (次回へ続く)

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筆者プロフィール

小田淳

オリジナル製品化/中国モノづくり支援
ロジカル・エンジニアリング 代表
小田淳(おだ あつし)

上智大学 機械工学科卒業。ソニーに29年間在籍し、モニターやプロジェクターの製品化設計を行う。最後は中国に駐在し、現地で部品と製品の製造を行う。「材料費が高くて売っても損する」「ユーザーに届いた製品が壊れていた」などのように、試作品はできたが販売できる製品ができないベンチャー企業が多くある。また、製品化はできたが、社内に設計・品質システムがなく、効率よく製品化できない企業もある。一方で、モノづくりの一流企業であっても、中国などの海外ではトラブルや不良品を多く発生させている現状がある。その原因は、中国人の国民性による仕事の仕方を理解せず、「あうんの呼吸」に頼った日本独特の仕事の仕方をそのまま中国に持ち込んでしまっているからである。日本の貿易輸出の85%を担う日本の製造業が世界のトップランナーであり続けるためには、これらのような現状を改善し世界で一目置かれる優れたエンジニアが必要であると考え、研修やコンサルティング、講演、執筆活動を行う。

ロジカル・エンジニアリング Webサイトhttps://roji.global/

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