図39左は筆者が勝手に設計したフックです。図39右はトポロジー最適化の結果をかみ砕いてモデリングしたものです。図39中央はトポロジー最適化の結果の穴を埋めたものです。図の円弧の半径と中心位置はトポロジー最適結果を使っているので、「セミ最適化」と名付けました。厚さを調整して3者は同じ体積です。
図40に相当応力の最大値を示します。最適化の応力は30.0[MPa]に対し、単純設計は筆者の設計センスが悪かったせいか52.0[MPa]と約73[%]増加しました。セミ最適化は、注目点の応力は31.7[MPa]とそこそこでしたがフック先端裏側で37.1[MPa]の応力が発生しました。板厚を薄くしたからです。
図41は応力が等しくなるように板厚を調整した結果です。板厚と体積を表1に示します。単純設計と比較すると、最適化により72[%]の体積削減ができました。
今回のマクロプログラムを、STEPファイルを読み込んだ後、三角形要素と四角形要素を含んだ任意の形状の有限要素法モデルに対応させた理由は、形の創造だけではなく、設計後の形状に対してさらなる肉抜きができないかを検討するためです。
例えば、図42左のような肉抜き済みの設計案があるとしましょう。肉抜きの穴は他の部品との干渉を避けるためかもしれません。トポロジー最適化では、これをさらに肉抜きできると思います。このような場合は、欲張って小さなaの値にしない方が現実的な肉抜きができます。a=0.7の場合を図43に示します。MBBはりと似た境界条件ですが、少し異なっていることに注意してください。
トポロジー最適化のアルゴリズムは、Excelシート上に表現しました。アルゴリズムを自分が考えたものに変えたいときは、シートの着色していないセルを書き換えてください。シートの黄色のセルは、特別で次世代の密度ρとそれに応じたヤング率であって「アルゴリズムによる最適化結果」です。このセルを書き換えることによって、オリジナルなアルゴリズムを実装できます。
以上で、トポロジー最適化の前半パートの解説は終了です。原理さえ知っていれば、高価な最適化ソフトを購入しなくても、フリーソフトとExcelマクロで肉抜きの方針決定や新たな形の創造ができることをご理解いただけたのではないでしょうか。
一方、この方法ではチェッカーフラグ問題が残ります。次は、チェッカーフラグを低減したトポロジー最適化を紹介します。今度のExcelシートはかなり大きなものになりますので、大きなディスプレイがあるとよいかもしれません。 (次回へ続く)
高橋 良一(たかはし りょういち)
RTデザインラボ 代表
1961年生まれ。技術士(機械部門)、計算力学技術者 上級アナリスト、米MIT Francis Bitter Magnet Laboratory 元研究員。
構造・熱流体系のCAE専門家と機械設計者の両面を持つエンジニア。約40年間、大手電機メーカーにて医用画像診断装置(MRI装置)の電磁振動・騒音の解析、測定、低減設計、二次電池製造ラインの静音化、液晶パネル製造装置の設計、CTスキャナー用X線発生管の設計、超音波溶接機の振動解析と疲労寿命予測、超電導磁石の電磁振動に対する疲労強度評価、メカトロニクス機器の数値シミュレーションの実用化などに従事。現在RTデザインラボにて、受託CAE解析、設計者解析の導入コンサルティングを手掛けている。⇒ RTデザインラボ
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