セミナーでは今後の鉄鋼市場における重要トレンドの1つとして、世界中で進む脱炭素化の流れを取り上げた。
特に鉄鋼業界ではCO2排出量削減のため、原料炭を使用する高炉から、鉄スクラップを原材料に電力で鉄鋼を生産する電炉への切り替えを検討する動きが、現在国内外で進んでいる。ただ電炉は「原料となる鉄スクラップの供給量が不安定であり、さらに当然電力は再生エネルギー由来のものを使用することになるが、実際にそれで賄えるのか不透明だ」(黒澤氏)といった懸念点があり、普及に向けた課題は残されている。
ただ、米国やカナダでは今後新設予定の生産設備への投資のほとんどが電炉関係に集中しており、グローバルで電炉導入の動きも強まっている。既存の高炉メーカーが電炉分野に進出する傾向もあり、「今後、電炉使用時の原材料となる鉄スクラップが“奪い合い”の状態になり、価格上昇が見込まれる」(黒澤氏)という。
またカーボンニュートラルに関連して、近年「DRIプラント」への注目が高まっている。DRIは直接還元鉄のことで、鉄鉱石を天然ガス中にある水素で還元することで生成される。これをさらに還元してHBI(ホットブリケットアイアン)を作り、電炉で使用することで、原料炭を使用する高炉と比較してCO2排出量を2〜4割削減できる可能性があるという。
既に、欧州ではDRIを応用した水素還元製鉄の取り組みを進めると表明する大手鉄鋼企業も増えている。ただ、「水素の大量調達に課題があることに加えて、精錬時に不純物を十分に除去することが現段階では難しく、いわゆる“高級鋼”の生産は困難」(黒澤氏)であるなど、今後解決すべき問題が残されている。
また、脱炭素化は各国生産量や輸出量に影響を及ぼす可能性もある。例えば、中国では脱炭素に向けて鉄鋼生産におけるCO2削減に取り組む動きを見せている。その一環として、2022年末までに鉄鋼業界でも排出権取引の仕組みを導入する計画があるという。先述の通り同国は2021年7月に減産指令を出しているが、脱炭素化の流れを鑑みると今後長期的にみて、「(再び)増産に向けて動くとは考えにくい」(黒澤氏)という。
黒澤氏は「脱炭素化と高級鋼生産を両立させるために国内外の企業が巨額の投資を進めているが、現時点では大量生産は難しい」と指摘した。
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