Armの次なる2000億個出荷に向けた布石「Arm Total Solutions for IoT」の狙いArm最新動向報告(15)(3/3 ページ)

» 2021年11月24日 10時00分 公開
[大原雄介MONOist]
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「Arm Total Solutions for IoT」は対RISC-Vよりもう少し広い観点で提供

 とはいえ、TAT短縮は常に開発に求められるニーズであり、これまでもCorstoneを提供してきた(図4)。現在、Cortex-MベースのCorstoneとしては以下の4種類が提供されている。

図4 図4 「Arm Corstone」の概要[クリックで拡大] 出所:アーム
  • Corstone-101:Cortex-M3ベース(Cortex-M0/M0+/M4にも対応)
  • Corstone-102:Cortex-M23ベースで、Security IPも追加可能
  • Corstone-201:Cortex-M33ベースで、Security IPも追加可能
  • Corstone-300:Cortex-M55ベースで、オプションでHeliumやEthos-U55、Security IPなどを追加可能

 これらは、CPUのIPコアに加えてインターコネクトやRTC(リアルタイムクロック)/NVIC(Nested Vectored Interrupt Controller:統合ネスト型ベクター割り込みコントローラー)、メモリコントローラーなどMCUを構成するのに最低限必要となるSystem IP、さらにドキュメントやテストベンチなどを全部含んだものであり、これがあれば「取りあえず動くMCU」をRTL(レジスタ転送レベル)レベルでは用意できることになる。そして、残る論理設計は周辺機器や製品差別化のための仕組みなど独自のものになる。少なくとも論理設計に要する時間は大幅に短縮できるわけだ。

 理論的にはここから物理設計に入るのと並行して、シミュレーターなどの上でこの論理設計を動かすことで、ソフトウェアの開発が行える。ただし、Cortex-Aを利用したスマートフォンあるいはサーバ向けのSoCであれば、そもそもの開発コストが大きいから、高価なシミュレーター環境を利用してソフトウェア開発を先行して行うことも現実的だが、開発コストが低めなMCUベースのSoCで、シミュレーション環境を利用するのは一般的ではない、というか一部の資金力のあるベンダーに限られていた。

 そこで、物理設計の期間短縮にはならないものの、ソフトウェア開発を先行して行うためのプラットフォームとして今回提供されたのがArm Virtual Hardwareである(図5)。

図5 図5 「Arm Virtual Hardware Target」の概要[クリックで拡大] 出所:アーム

 「Industry First」というのが「CPUベンダーが、無償で提供する」という意味ではその通りであるが、Virtual Hardwareと同様の機能については、例えばImperasがDEV(Virtual Platform Development and Simulation)を以前から提供している。ただ今回Armは、Virtual Hardwareそのものをクラウド上かつ無償で利用可能にしたという点が画期的である。もちろん、例えば「Amazon EC2」上で動くVirtual Hardwareを利用する場合、Virtual Hardwareそのものは無償で利用できるが、EC2の利用料はかかる。ただVirtual Hardwareはオンプレミスでも稼働するという話なので、利用頻度次第では自社でオンプレミスサーバを立てて、ここで利用するという選択肢もありだろう。これにより、事実上物理設計/製造の時間とソフトウェア開発の時間をオーバーラップさせることで、開発時間を最大2年短縮できるとしているわけだ。

 3つ目の柱であるProject Centauriは、実は別に新しい話ではない(図6)。「Open-CMSIS Pack」を利用するとともに「PSA Certification」と「Trusted Firmware-M」を利用することで、ファームウェアやミドルウェアの開発期間を短縮しながら、セキュアなシステムの構築が容易となる。ここでの肝は、Arm Total Solutions for IoTを利用するとPSA Certificationに対応しやすい(というか、対応しないといろいろ面倒)とすることでハードウェア/ソフトウェアのセキュア化を促進することにある。

図6 図6 「Project Centauri」の概要[クリックで拡大] 出所:アーム

 PSA Certificationは2017年に発表されており、今では結構な数の製品(ハードウェア/ソフトウェア)が対応しているが、ベアチップはともかくシステムでの利用はこれからという格好であり、そのあたりを促進する目的もあると思われる。そしてPSA Certifiedな環境を作るためにはセキュアなファームウェアも必要で、これはTrusted Firmware-Mを利用することで容易に実現する。

 要するにこれ、冒頭のシガース氏の話ではないが、「次の2000億個」のArmベースSoCを世の中に出すためには、もっと開発期間と開発コストを下げつつ、よりセキュアなチップ(というか、ソリューション)を提供できるようにする必要があり、差別化要因になる部分以外はなるべくレディーメイドの形で提供するようにしたい、というニーズがまずあり、これに向けて現状での最適解を模索した結果、といえるだろう。もちろんその中には、対RISC-Vという部分もなくはないが、Armはもう少し広い観点からArm Total Solutions for IoTの提供を決めたのだろう、と筆者は考える。

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