SystemReadyというかCortex-Aの、それも比較的ハイエンド向けの場合、製造プロセスが限られる関係で、ファウンドリーも限られる。IoT(モノのインターネット)エッジ向けの「Cortex-A33/A35」、あるいはもっと古い「Cortex-A5/A7」クラスであれば、28nmや場合によっては40nmプロセスということも考えられるが、SystemReadyで想定しているような性能と消費電力、実装密度を実現するには16/14/12nmのFinFETでも厳しいものがあり、最低でも7nmクラスになる。
これから狙うのであれば5nmプロセスがターゲットとなる。現状これを提供できるのはTSMCとSamsungのみである。順調に進めば、いずれはIntelもここに加わるかもしれないが、それでもせいぜい3社である。SystemReadyではプロセッサのみならず周辺回路やインターコネクトまで含めて「POP(Processor Optimization Package) IP」の形で提供することでTAT(Turn Around Time)の短縮を図っており、カスタマー(つまりSystemReadyを使ってSoCを構築しようとする顧客)は、差別化機能(ネットワーク向けならパケット処理アクセラレータ、直近のトレンドであればAI(人工知能)向けアクセラレータなど)の設計だけを自分で行い、これらを組み込んでSoCを開発することができる。
ところがCortex-Mの場合、まずターゲットプロセスが多すぎる。さすがに180nmはもうほとんど見なくなったが130nmはまだ現役(IoT向けの制約されたデバイス(Constrained Device)用に「Cortex-M0」と小容量のフラッシュ/SRAMの構成なら十分競争力がある)であり、90/65nmあたりもまだ利用例がある。最近は40nmを経て28/22nmあたりが主流になりつつあるが、例えばSamsungは今後MCU向けに14nm/3.3V駆動のプロセスを投入する予定としているし(図2)、TSMCも現在低消費電力向けとしてプッシュしている22UULの後継としてN12eを用意しているから、2022〜2023年にはハイエンドMCU向けにはこうしたFinFETプロセスが使われることになりそうだ。
もちろんFinFETになると、TSMCとSamsung、GlobalFoundries位しか現実的な選択肢がないが、28nmであればUMCやSMICなども視野に入るし、40nm世代になるとそれこそファブライト戦略を取るメーカーの自社工場でも製造が可能だ。こうなると、ArmとしてはとてもではないがPOP IPの提供は不可能である。これには例外もあって、例えばArmは2018年にTSMCの22ULL向けにCortex-MのPOP IPとPhysical IPを提供開始しており(図3)、現在は「Flexible Access」経由でも入手可能になっているが、これはかなり例外に近い(どちらかといえば、TSMCが22ULLの利用促進のため、ArmにIPの提供をお願いした感じの位置付けになっている)。
現実問題として、多数のファウンドリーが提供するさまざまなプロセスノード全てにPOP IPを提供するのはArmとしても不可能であり、それもあってCortex-M向けに関しては物理設計の時間の短縮は結構難しいといえる。幸いにもCortex-Aベースのサーバ向けSoCに比べれば回路規模もはるかに小さいし、プロセスそのものも多くが成熟しているので、設計に要する時間はサーバ向けSoCに比べればずっと短くて済むのだが。
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