勝利を約束されたArmのAI戦略、MCUの微細化も加速させるかArm最新動向報告(9)(1/3 ページ)

Armが開催した年次イベント「Arm TechCon 2019」の発表内容をピックアップする形で同社の最新動向について報告する本連載。今回は、「Ethosシリーズ」や「ArmNN」などを中核に進めるArmのAI戦略について紹介する。

» 2020年03月09日 10時00分 公開
[大原雄介MONOist]

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 そもそもArmがAI(人工知能)に注力し始めたのは2017年だったと記憶している。それまでは、同社のMedia Processing GroupのVP, Fellow&GMというポジションで「Mali GPU」の指揮を執っていたJem Davies氏が、突如Machine Learning Groupという新設部門に異動したあたりから、本腰を入れ始めた感がある。

 もちろん、それ以前からAIというかML(Machine Learning、機械学習)に対するサポートは行っており、2017年には「DynamIQ」の発表に際してアクセラレータに対応したACPと呼ばれるポートが追加されたり、「ArmNN」と呼ばれるフレームワークを提供したりはしている。ただ当時は「Cortex-A」やMali GPU上で既存のNN(Neural Network、ニューラルネットワーク)を動かすためのフレームワーク以上のものではなく、Cortex-AやMali GPUの方もまだNNに最適化された構造ではなかった。

 加えて言えばArmNNが広く知られるようになったのは、2018年9月にArmからLinaro Machine Intelligence InitiativeにArmNNが寄贈されてからであり、その前は知名度はいまひとつだった感がある。

「Project Trillium」から始まったArmのAI戦略

 さて、先述したMachine Learning Groupが2017年9月に発足してから数カ月で発表されたのが「Project Trillium」である。Project Trilliumは、機械学習やオブジェクト検知機能を提供する新型プロセッサとNNのソフトウェアを含むIPスイートとされたが、まだこの段階では具体的なIPの形にはなっていない。

 これが多少なりとも具体化して現れたのは2018年8月だ。「HotChips 30」において、「Arm ML Processor」の詳細が公開され、これでProject Trilliumの目指すものがおおむね理解できた形である。ただしこの段階ではまだ正式名称は付いておらず、また最終製品に比べると若干構成が異なっていたりする。

 そして最終製品である「Arm Ethos-N77」として発表されたのが2019年5月のことである。これに続き、「Arm TechCon 2019」開催“後”の2019年10月23日に中国の北京で開催された「Arm Tech Symposia 2019 Beijing」において、「Ethos-N37/N57」が発表されている。

 並行して、CPUやGPUへのML対応も急ピッチで進められることになった。こちらの記事でもちょっと触れたが、2017年に発表された「Cortex-A75」「Cortex-A55」の世代で実装された「Armv8.2-A」では、Int 8(8ビット整数)のDot Product(ドット積)と、FP16(半精度浮動小数点数)のサポートが追加された。GPUについても、2018年3月に発表された第2世代「Bifrostアーキテクチャ」に属する「Mali-G52」からFP16のサポートが追加され、2018年6月に発表された「Mali-G76」ではさらにInt 8のDot Productのサポートが追加された。その後、世代ごとに少しずつ性能は向上しており、2019年6月に発表された「Mali-G77」では、基本的なアーキテクチャそのものは変わらないながらも、同じエリアサイズでNN関連性能を大きく引き上げたとしている(図1)。

図1 図1 これは2019年6月に台北で行われた「Mali-G77」の発表会におけるスライド(クリックで拡大)
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