防舷材不適切検査を30年続けた住友ゴム、南アのタイヤ生産不正は日本人駐在員が主導品質不正問題(2/2 ページ)

» 2021年11月10日 06時30分 公開
[朴尚洙MONOist]
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南アフリカ子会社での不適切事案は日本人首席駐在員が主導

 一方、南アフリカ子会社での不適切事案は、南アフリカ共和国クワズール・ナタール州にあるSumitomo Rubber South Africa(以下、SRSA)で発生した。2017年8月〜2021年5月にかけて出荷していた南アフリカ製新車向けのタイヤ約40万本(車両8万台相当)の一部において、顧客との取り決めに基づいて定めた仕様と異なる製品が出荷されていた。

 仕様の相違は2点あり、1点はタイヤの寸法(真円度)や重量・剛性などの均一性を示すユニフォミティの検査規格値、もう1点は一部製品におけるタイヤをホイールに組み付けるときにタイヤ側に接触する部分に当たるビード部の形状である。

 田辺総合法律事務所 弁護士の田辺克彦氏が委員長を務めた調査委員会の報告書によれば、この不適切事案はSRSAの日本人駐在員で最上位の役職にあった人物(以下、日本人首席駐在員)が主導したという。2021年1月に新たに就任したSRSAのCEOが新車装着タイヤ(OE品)の収率悪化に疑問を持つ中で、日本人首席駐在員によるユニフォミティの検査規格値の変更指示などが明らかになった。

 調査報告書では、この日本人首席駐在員は、自身が最終責任者ではないと弁明しながら顧客と合意の上で実施したものであると説明しているものの、それを裏付ける客観的資料が存在せずおよそ合理的説明になっていないと指摘し「不適切行為が日本人首席駐在員の指示で実行されたと判断した」としている。なお「生産技術のエキスパートとしての自らのプライドをかけて工場のOE品の収率を改善しようとしたものと思われる」(調査報告書)という言及もある。

 この日本人首席駐在員以外に積極的に不適切行為に加担したとみられる人物はいない。しかし、指示を受けて関与した人物や、不適切行為を認識していた人物は存在しており、そこから本社に報告が上がることはなかった。

 今回の問題は、日本人首席駐在員の不適切行為だけでなく、SRSAの新CEOから報告を受けた2021年2月の段階で、住友ゴム工業 欧州・アフリカ本部(EAH)の本部長が「市場で不具合がなさそうであれば、顧客に申し出ないで静観することも検討に価する」(調査報告書)としたことも大きい。結果として、この問題を認識していた住友ゴム工業の海外事業部担当者も社長、会長に報告しなかった。

 その後状況が動き出すのは2021年4月に入ってからだ。まず、SRSAに住友ゴム工業 技術部付の技術者が赴任し、スペック変更の問題を認識してから調査を進め、2021年4月に住友ゴム工業 本社品質保証部部長および技術部の関係部課長らに報告した。また、2021年4月に赴任した新たなEAH本部長がこの問題について顧客への報告を行うことを決め、住友ゴム工業本社として不適切行為への対応を進める流れとなった。

 調査報告書では、不適切行為の背景として「牽制・監督機能を欠いた人員配置」「南アフリカ子会社の品質保証体制の脆弱さ」「南アフリカ子会社に対するガバナンスの弱さ」「工程能力を超えた受注に対するリスク管理の不十分さ」「企業理念浸透の不十分さ」の5点を挙げた。その上で、「南アフリカ子会社の品質管理・保証体制の見直し・強化」「南アフリカ子会社に対するガバナンスの強化」「企業風土改革」などの再発防止策を提案している。

SRSAのこれまでの組織風土 SRSAのこれまでの組織風土[クリックで拡大] 出所:住友ゴム工業

 住友ゴム工業は、2つの不適切事案に対する調査報告書に基づいた施策として品質保証本部の新設を決めた。品質保証本部では、タイヤ事業、オートモーティブ事業、スポーツ事業、産業品事業それぞれの品質保証部が担っていた機能を統合するとともに、判断の独立性、品質協議の権限、QMS(品質マネジメントシステム)の全社浸透(の推進)、監査機能を持たせることで、機能強化と品質に関する全社意識の向上を図る。

 品質保証本部の傘下には、コンプライアンス順守の仕組み構築や品質重視の製品企画機能の強化を目指す「品質戦略部」、QMSの実践と浸透を監視する「品質監査部」、各商材における潜在不具合の顕在化と品質不具合の未然防止を目標とする「タイヤ品質保証部」「HB品質保証部」「SP品質保証部」「AS品質保証部」、原材料サプライヤー、外注先の管理、監査、指導を行う「原材料・外注品監査部」を設ける。

 不適切事案の関係者の処分については、社長、会長、副社長、関係役員の減棒の他、社内規定に基づき厳正に処分するとしている。

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