三菱電機は、名古屋製作所 可児工場と長崎製作所で判明した品質不正の調査報告書を受けて、今後の同社の方針や再発防止策を含む「品質風土」「組織風土」「ガバナンス」から成る3つの改革の取り組みについて説明。今回の取り組み発表に合わせて、同社 取締役会長の柵山正樹氏の退任も発表した。
三菱電機は2021年10月1日、オンラインで会見を開き、同日発表された名古屋製作所 可児工場(岐阜県可児市)と長崎製作所(長崎県時津町)で判明した品質に関わる不適切事案(以下、品質不正)の外部専門家で構成する調査委員会(以下、調査委員会)による調査報告書を受けて、今後の同社の方針や再発防止策を含む「品質風土」「組織風土」「ガバナンス」から成る3つの改革の取り組みについて説明した。
調査報告書では、電磁開閉器やマニュアルスターターモーターの生産で品質不正を行っていた可児工場において、公表済みの2件(5月7日と7月21日に発表)と合わせて合計6件、鉄道車両空調装置などの量産試験で品質不正を行っていた長崎製作所では公表済みの6件(6月30日に発表)と合わせて合計12件の品質不正が判明した。
調査が進展している可児工場の品質不正では、当時の品質保証課を中心に1994年ごろに始まっていたことが判明した。また、2017年度と2018年度に行われた全社品質点検では、現場から品質不正についての相談を受けた当時の可児工場の工場長が、長期の出荷停止などをおそれて名古屋製作所に報告せず、品質不正の事実を隠蔽(いんぺい)したことが明らかになった。
より工場としての規模が大きい長崎製作所については、前回の発表からさらに4件の品質不正が判明したものの、現時点でも調査は継続中である。遅くとも1985年から品質管理課による品質不正が行われており、1990年ごろには、作業負荷の軽減を目的に乱数を用いて商用試験の検査成績書を自動生成するプログラムを品質管理課が作成し、問題が明らかになるまで運用を続けていたという。また、2018年度の全社点検の際に、車両用空調装置と車両用空気圧縮機の試験データの整合性に問題があるという指摘があり、当時の社会システム事業本部長で現社長の漆間啓氏が調査を指示したものの、長崎製作所の説明を受け入れ、結果として品質不正を見過ごしたことも分かった。
ただし、調査報告書では、可児工場と長崎製作所の品質不正に、三菱電機の取締役や執行役員がその在任期間を問わず、関与していたり、その存在を認識していたりということは認められないとした。
調査委員会による調査は今後も三菱電機の国内22製作所を対象に継続し、3カ月ごとをめどに公表する予定。2022年4月をめどに調査完了を目指すものの、新たに品質不正などが判明し、調査にさらなる時間を要する場合には、2022年4月というめどにはこだわらないとしている。
なお、調査委員会は、三菱電機で品質不正が長年継続するとともに隠蔽されてきた原因について「品質に実質的に問題がなければ、規定された手続で品質を証明しなくてもいいという正当化」「本来はけん制機能を持つべき品質部門が製造部門の傘下にあって独立性が確保されてない」「多忙を極める課長クラスなどのミドルマネジメントの機能不全」「本部・コーポレートと現場との間に距離・断絶があったこと」などを指摘。改革に向けた8つの提言も行っている。
今回の調査報告書と改革取り組みの発表を受けて、三菱電機 取締役会長の柵山正樹氏が2021年10月1日付で退任することも発表した。柵山氏は、同年7月5日から活動を自粛していた経団連(日本経済団体連合会)の副会長と各種委員長職も辞任する。
会見に登壇した柵山氏は「今回の品質不正で最大の問題は経営層と現場の断絶にある。経営層は現場を把握できず、経営層からの発信も現場に届けられていなかった。現場社員には申し訳ないと考えている」と語る。
また、事業執行を担う執行役員を監督する取締役会の監督責任も大きいとし、社外取締役である藪中三十二氏が取締役会議長に就任することで監督機能が得られる方向性も示せたという。これら取締役会の体制整備にめどが付いたこともあり退任を決めた。「本来は前社長の杉山(武史氏)と同時に辞任しようかと考えたが、現在は体制を整える準備ができるまで職を続けてよかったと考えている」(柵山氏)とした。
経営層と現場の断絶の要因として、人事異動が製作所や工場内で完結し事業本部をまたぐことはほぼなく、製作所や工場といった小さな単位で閉鎖的な組織が形成されている点が調査委員会から指摘されている。柵山氏は「そのためにも人員のローテーションには手を付けるべき余地が大きい。1カ所に長く居続けることで閉じた連帯感はできるが、これが自浄作用を妨げる」と指摘した。
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