ここで注目したいのが、レポート中に使われている「デジタル企業」という言葉だ。デジタル企業とは、市場環境の変化に迅速な対応ができる企業を指す。レポートでは、デジタルを活用し、単にテクノロジーを取り入れるだけにとどまらず、変化を恐れずに実践する体制と、柔軟な対策を打てる企業文化を育てることが必要だと指摘している。
デジタル企業へ変革するために必要なものは何か。それは企業内に事業変革の体制を整備するとともに、環境変化に迅速に対応できるようにすることだ。レポートでは、短期的には「DX推進体制の整備」「DX戦略の策定」「DX推進状況の把握」、中長期的には「産業変革のさらなる加速」「デジタルプラットフォームの形成」「DX人材の確保」が必要だと指摘している。
そもそも製造業がDXに取り組むべき最大の要因は、デジタル化による新しい顧客価値を創造することだ。新しい顧客価値を作るには、レガシーシステムの刷新だけでは足りないのは明らかだろう。
それでは製造業は、どのようにDXを進めていくべきなのか。DXには「守り」と「攻め」の2つの側面がある。
攻めのDXの中心となるのは、上記で挙げた「顧客価値の創造」だ。従来のように製品を販売すれば終わりではなく、製品販売後も顧客とつながって、アフターサービスを提供する「コネクテッド・インダストリー(CI)」に転換することで、サービス型企業となることも可能になる。
例えば、工作機械を販売する企業がサービス型企業に転換すると、製品販売後に利用状況をデータとして取得することで、販売した工作機械の異変にいち早く気が付くことができる。工作機械の異変をいち早く連絡し、故障を防ぐアドバイスをすることで、顧客は工作機械がストップし業務が止まる事態を避けることができる。
ビジネスとしても継続的に顧客とつながることで、売り切りではない新たな収益を獲得できる可能性が生まれる。このように攻めのDXは、新たな収益構造を確立し、企業の売上高を向上させる。
一方、守りのDXとは社内で実施するデジタル変革だ。具体的には「従業員の生産性向上」「ビジネスオペレーションの効率化」が挙げられる。ここで考えるべきは、この守りのDXと従来のカイゼンがどのように異なるかということだ。
カイゼンでは、主に現場の従業員が主導となって、部門ごとでの生産性や効率化を図ってきた。一方で、守りのDXはムダを省くことで、実際に経営に貢献し、攻めのDXの推進を支えるものでなければいけない。そのためには、一部門にとどまらず、会社全体、ビジネス全体においてムダを省かなければならない。
ROE(自己資本利益率)から財務レバレッジを除いた式に当てはめると、攻めのDXは主に売上高を向上させるのに対して、守りのDXでは当期純利益と総資産に貢献する形となる(下図参照)。
まさに抜本的な企業変革というべき攻めのDXを推進することは容易ではない。業態によっては実現に時間がかかる企業もあるだろう。一方で守りのDXは、どのような業種の製造業でも取り組めるし、取り組むべきものである。まずは、守りのDXによって、攻めのDXに必要となる、基礎的な企業の“筋肉”を付けることを目標とするのが良いだろう。
抜本的な変革の礎となる守りのDXは、従来のカイゼン活動を上回る価値をもたらす“真のカイゼン”とも言える。次回からは、真のカイゼンともいえる守りのDXの具体的な実践方法として、取り組むべき5つのムダの解消について解説する。
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