FDAは2020年4月、COVID-19による公衆衛生上の緊急事態に対応するため、「COVID-19公衆衛生緊急時下における医薬品サプリチェーン安全保障法の特定の要求事項からの例外および除外 - 業界関係者向けガイダンス」(関連情報)を公表した。これにより、COVID-19緊急対応を目的とした医薬品などは、暫定的にDSCSAの適用対象外となった。
その一方で、COVID-19パンデミックのような緊急事態に対応するための支援ツールとして、ブロックチェーン利用を検討する動きも進んでいる。例えば、2021年3月4日、モデルナとIBMは、COVID-19ワクチンのサプライチェーンおよび輸送データの共有において連携する計画を発表した(関連情報)。両社は、政府機関や医療機関、ライフサイエンス組織、個人の間におけるセキュアな情報共有を加速させるのに、技術を役立てることができる手法を特定し、ワクチンプログラムの信頼性を向上させ、ワクチン接種比率を高めることによって、地域感染を抑制することを目的としている。
IBMによると、米国内におけるケイパビリティの有用性を調査するために、以下のような点に焦点を当てるとしている。
医薬品サプライチェーンの動きに対して、米国の医療機器業界では、FDAが、1993年8月、一意の機器固有識別子(UDI)による製品トレーサビリティー管理に関するルールを制定し、標準化されたコードを利用した製品の有効期限やロット番号の表示、データベースへの登録などが義務化されている。欧州の医療機器業界では、本連載第69回で触れたように、2021年5月26日、「医療機器規則(MDR)」の適用が始まり、EU域内統一の機器固有識別子(UDI)/機器登録などを管理する「EUDAMED」のシステムが運用されている。
欧州の医薬品業界では、EU偽造薬対策指令(FMD)(関連情報)により、2019年2月より、CSDSAに類似した医薬品包装の識別と認証の義務化がスタートし、欧州医薬品検証システム(EMVS)が運用されている。
米国、欧州のいずれも、医薬品・医療機器サプライチェーンの効率化・自動化に向けての制度的仕組みづくりが進行し、ブロックチェーン/分散台帳技術の実用化に向けた基盤も整いつつある。
このような欧米の動きと比較すると、日本の医療機器や医薬品のサプライチェーンに関わるステークホルダーは、目前のCOVID-19緊急対応に忙殺され、次世代を見据えた新技術によるイノベーションの域までたどり着けないのが現状だろう。金融など、日本国内の異業種が有するブロックチェーン/分散台帳技術の経験/ノウハウを活用するなど、オープンなアプローチが必要とされるのではないだろうか。
笹原英司(ささはら えいじ)(NPO法人ヘルスケアクラウド研究会・理事)
宮崎県出身。千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所、グロバルヘルスイニシャチブ(GHI)等でビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。
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