為替レートと経済の関係で、もう1つ重要なことは、輸出や輸入といった貿易との関係です。日本は自動車産業など、輸出型産業が多いので、「円安」の方が都合が良いといわれていることを先述しましたが、一方で円安の場合は、エネルギーや資源などの輸入が割高となります。つまり、輸出型の経済であれば円安が都合がよく、輸入型の内需の強い経済であれば円高の方が都合が良いことになります。ここでは日本が「貿易立国」だというイメージが現在も当てはまるかを考えてみましょう。
図4は輸出額のGDPに対する割合を国ごとに示したグラフです。
輸出が多いイメージのあるドイツや韓国は、それぞれ47%、44%と主要国では高い水準であることが分かります。一方で日本はわずか18%です。この数値は、OECD36カ国中35番目で、内需大国の米国の次に低い水準になります。実は、日本は経済規模の割には、輸出の極めて少ない国だということになります。
念のためにもう1つグラフを見ていただきましょう。図5は、人口1人当たりの各国の輸出額をグラフ化したものです。
人口1人当たりの輸出額で見ても、日本は非常に小さい水準であることが分かります。工業立国だとされているドイツは、輸出が非常に多く、金額で言えば日本の3倍くらいの水準になります。
さらに、純輸出額についても見てもらいましょう。図6は各国の人口1人当たりの純輸出額の推移を示しています。純輸出額は輸出額から輸入額を差し引いたもので「貿易収支」とも呼ばれます。GDP支出面に直接加えられる数値でもあります。
現在の日本(青)も含めて多くの国では、輸出額と輸入額はほぼ均衡していて、差し引きの純輸出額はほぼ相殺されてゼロ付近で推移しているケースが多いように見えます。この純輸出額で見ると、日本は確かに1990年代中頃まではプラスで推移していたことが分かります。常に輸出が超過していたわけですね。その後は、ドイツ(緑)や韓国が(茶)大きく純輸出を伸ばす中で、マイナスやゼロ近辺にとどまります。一方、米国は大きく輸入が超過している国だということが分かります。
このように、各国の状況を比較してみると、実は日本は、ドイツや韓国のような貿易型の経済ではなく、米国に比較的近い内需型の経済であることが見えてきます。貿易立国が字の通り「貿易で成り立っている国」とするのであれば、それはドイツや韓国のように、輸出で経済が成り立っている国であり、日本はこうした姿には当てはまりません。
「日本は貿易立国で為替レートは円安の方が良い」というイメージがありますが、これらのグラフや数値から見ると、この考え方ははたして正しいのでしょうか。本稿ではその是非を議論することが本題ではありませんのでここには深入りしませんが、ぜひ輸出や輸入、為替レートの関係について考えてみていただきたいと思います。
今回は、海外との通貨の交換比率である為替レートについて取り上げました。日本は、1973年の変動相場制への移行以来、全体的には円高が進んで停滞しています。一方で、物価と為替レートの関係から、国際的な物価の程度を比較できる「物価水準」についても紹介しました。日本は円高の進展もあり、1995年をピークに極めて物価水準の高い期間がありました。しかし、国内の物価が停滞するのと並行して、この物価水準も相対的に下がってきています。
また、為替に関連して、輸出についてもファクトを確認しました。貿易立国というイメージの強い日本ですが、輸出額は対GDP比で見ても、1人当たりの数値で見ても、先進国で極めて小さい水準であることが分かりました。日本経済の実態は、貿易立国ではなく、内需型経済に依存する国だということが明らかになったと考えます。
それではなぜ、製造業が盛んで工業品の輸出が多いと思われる日本で、こんなに輸出額が少ないのでしょうか。
それには、もともと内需型であったという面もありますが、輸出型の産業の多くが既に海外進出を進めていて、輸出よりも現地生産を増やしているという側面が大きいようです。実は、日本では「日本型グローバリズム」とも呼べるような特殊なグローバル化が進んでいます。
次回は、経済のグローバル化についてのファクトを共有しながらこの「日本型グローバリズム」について解き明かしていきたいと思います。
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小川真由(おがわ まさよし)
株式会社小川製作所 取締役
慶應義塾大学 理工学部卒業(義塾賞受賞)、同大学院 理工学研究科 修士課程(専門はシステム工学、航空宇宙工学)修了後、富士重工業株式会社(現 株式会社SUBARU)航空宇宙カンパニーにて新規航空機の開発業務に従事。精密機械加工メーカーにて修業後、現職。
医療器具や食品加工機械分野での溶接・バフ研磨などの職人技術による部品製作、5軸加工などを駆使した航空機や半導体製造装置など先端分野の精密部品の供給、3D CADを活用した開発支援事業等を展開。日本の経済統計についてブログやTwitterでの情報発信も行っている。
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