それでは、日本の為替レートについて、実際の推移を見てみましょう。
図1は、1960年からのドルー円為替レート(青)の推移を示しています。数値は年間の平均値です。同じグラフに購買力平価(赤)も併記していますが、購買力平価については後ほどご説明します。
1970年まで、日本の円はドルに対して360円/ドルで固定されていました。為替レートを固定する固定相場制ですね。それが1973年に変動相場制へと移行し、段階的に円高方向への推移が始まります。1980年代前半までは200〜250円/ドル程度でしたが、1985年のプラザ合意を機に、急激に円高が進むことになりました。
これがきっかけで、日本の不動産や株式バブルが発生したと見られていますね。1995年には100円/ドルを割り込み、その後は上下しながらも100〜130円/ドルの間で推移します。2008年のリーマンショックを機に急速な円高が進み、一時は80円/ドルを割り込む水準まで達しました。このあたりは記憶に新しい方も多いのではないでしょうか。輸出産業が大きくダメージを受け、海外生産を進めた企業が急激に増えたのも2010〜2012年あたりですね。その後は2016年ごろから105〜110円/ドルで安定している状況です。このように紆余曲折はあったものの、為替レートとして見た場合、この50年の間に、ドルに対する円の価値が3倍以上高まったということになります。
一方で、もう1つの指標である「購買力平価」(Purchasing Power Parities)とは何でしょうか。なかなか聞き慣れない用語ですので、説明していきます。
購買力平価とは「為替レートは自国と相手国の購買力の差によって決まる」という仮定に基づいた、通貨の交換比率を表す指標です。簡単にいえば、あるグローバルチェーンのハンバーガーが、米国で2ドル、日本では200円で販売されていたとしたら、実際的なドルー円の交換比率は200÷2=100円/ドルであるということです。もちろんこのハンバーガーは、それぞれの国で同じ価値を持つことが前提となります。これを「一物一価の原則」といいます。
これらの指標を総合した通貨全体としての交換比率が「(絶対的)購買力平価」となります。この購買力平価は理想的な交換比率を示していて、実際の為替レートも「購買力平価に近づいていく」と説明されます。ただ現在は、購買力平価は両国間の物価水準の違いに連動するとされる「相対的購買力平価」が用いられる方が一般的です。相対的購買力平価は、以下の式で求められます。
相対的購買力平価 = 基準年の為替レート × 自国の物価指数 ÷ 相手国の物価指数
この計算で出てくる物価指数がまさに、GDPデフレータになるわけです。ある基準年の為替レートに対して、両国の物価の比率を掛け合わせたものになります。
また、為替レートと購買力平価の間には「物価水準」(Price Level)という指標が隠れています。図1を見て明らかなように、為替レートと購買力平価には乖離(かいり)がありますが、実はこの乖離している割合が「物価水準」となります。つまり、物価水準は次の式で算出されます。
物価水準 = 購買力平価 ÷ 為替レート
実際の取引に伴う交換比率が、お金同士の交換比率に対してどれだけ割高(あるいは割安)かを表したものです。この場合、日本の円は、ドルに対してどれだけ割高(割安)に評価されているかということになります。
先ほどのハンバーガーの例で見てみましょう。
ある時点で、日本のハンバーガーが200円、米国のハンバーガーが2ドル、為替レートが50円/ドルだったとします。この場合、購買力平価は、200÷2=100円/ドルとなります。しかし、実際の為替レートは50円/ドルです。この乖離が物価水準となります。つまり、100÷50=2となり、日本は米国に対して2倍の物価水準だといえるということになります。
もう少し身近にイメージできるようにかみ砕いて説明します。例えば、あなたが米国に住んでいるとします。米国国内ではハンバーガーを2ドルで食べることができます。一方、出張で日本に行って、ハンバーガーを食べようとすると、日本では200円必要なので、ドルを円に換金します。日本でハンバーガーを食べるのに必要な200円を手に入れようとすると、200円÷50円/ドル(為替レート)=4となり、4ドル必要になります(手数料は無視します)。
つまり、米国では2ドルでハンバーガー1個を食べられるのに、日本では4ドル必要になるということになります。これが物価水準の違いで、この条件下では、米国と日本に2倍の物価の違いがあるということになります。例えば、スイスなどは「物価が高い国」というイメージがあると思いますが、この場合の物価とはこの「物価水準」を指しています。
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