それでは各国の物価水準を見てみましょう。図2がOECD各国の物価水準の推移です。米国(ドル)を1.0とした場合の相対的な比率として表現しています。
消費者物価指数やGDPデフレータは、あくまでも国の中での物価変化を示しています。物価水準を見ると、物価の国際的な比較が可能となります。厳密性という意味では疑問が残りますが、参考になる指標だと考えます。
これを見ると、日本は1980年代後半から2000年代前半まで、高い水準を続けています。特に、1995年には1.86という極めて高い水準となっていました。これは、米国の2倍近くの物価水準で、その他の国を見ても、スイスより「物価が高い国」だったわけですね。この頃は、日本から見ると、他国のモノやサービスが極端に安く見えたのではないでしょうか。実際に、この頃には日本企業による海外企業の買収などが話題となりました。
一方で、1995年以降は、日本の物価水準は、上下はあるものの、傾向的には減少傾向だといえます。最近では米国を下回り、0.97まで低下しています。これは、対米国の物価水準が、25年間で約半分になったことを示しています。
このグラフからも分かる通り、日本国内の物価が「相対的デフレ期(前回参照)」により停滞している間に、国際的な物価水準が低下してきた様子が見て取れます。そして同時に、日本の製品がなぜ海外で売れなくなり、企業が海外進出を進めたのかということもこのグラフを見れば納得できるのではないでしょうか。物価水準で見ると、1990年代〜2010年代中頃まで、日本で作ったモノは、海外から見れば割高だったわけです。
実は、図3のように、物価水準は1人当たりGDPとも強い相関があります。
図3は横軸に物価水準、縦軸に1人当たり名目GDPをとり、それぞれのOECDの平均値に対する割合をプロットしたものです。1997年から2019年までの変化を描いています。このグラフを見て明らかなように、物価水準が高いほど、1人当たりGDPも高いという正の相関があることが分かります。つまり右上に進めば進むほど、経済力が強いということがいえます。
日本(青)は右上の領域から直近では中心付近へと、大きく後退しています。右上の領域の「強い経済」という立場を維持できずに、平均付近まで後退しているという動きが見て取れます。逆に韓国(茶)は左下の領域から徐々に中心へと移動してきていますね。ドイツ(緑)は比較的中心付近の位置を維持しています。輸出に有利な比較的物価水準の低い状態を維持しつつ、1人当たりGDPはやや高めの位置です。スイス(深緑)やルクセンブルク(深緑)は右上の領域での推移を維持しています。つまり、物価水準の高い、経済の強い国であり続けているわけです。
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