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» 2021年07月12日 11時00分 公開

本当に日本は「デフレ」なのか、「物価」から見る日本の「実質的経済」の実力「ファクト」から考える中小製造業の生きる道(5)(4/4 ページ)

[小川真由/小川製作所,MONOist]
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米国、ドイツ、フランスと日本の決定的な違いとは

 図5〜7は、米国、ドイツ、フランスの名目GDPと実質GDPの推移を示したものです。実質GDPは1991年を基準にしています。

photo 図5 1991年基準の米国の名目GDPと実質GDPの推移(クリックで拡大)出典:「OECD統計データ」を基に筆者が作成
photo 図6 1991年基準のドイツの名目GDPと実質GDPの推移(クリックで拡大)出典:「OECD統計データ」を基に筆者が作成
photo 図7 1991年基準のフランスの名目GDPと実質GDPの推移(クリックで拡大)出典:「OECD統計データ」を基に筆者が作成

 各国ともインフレなので、名目GDPよりも実質GDPが下回ったグラフとなっています。物価が上昇した分だけ、実質的な経済成長が追い付いていない状況が生まれています。

 同様に日本の状況も見て見ましょう。図8が日本の名目GDPと実質GDPのグラフです。

photo 図8 1991年基準の日本の名目GDPと実質GDPの推移(クリックで拡大)出典:「OECD統計データ」を基に筆者が作成

 図5〜7図8を見比べてみてください。何か違和感がないでしょうか。

 前者と後者の違いで明確な違いが、名目GDP(赤)と実質GDP(青)の位置が逆だということです。日本は、名目GDPよりも実質GDPが上になっています。さらに、日本は名目GDPが横ばいなのに、実質GDPは右肩上がりに増加しているように見えます。

 これらのグラフは物価と実質値の関係を説明しやすくするために、意図的に1991年基準としたものです。統計データ上は実質値とは「基準年と物価が変わらなかったとした場合の、経済活動の数量的な推定値」となるわけです。

 日本の場合は、現在よりも基準年(1991年)の方が物価が高かったので、現在は名目値よりも実質値の方が高くなっているというわけです。この場合は、1991年の物価であれば、現在は600兆円を超えるGDPに相当する経済活動をしているということになりますね。しかし、実際に観測される名目上のGDPは550兆円ほどです。

 実質値で経済を評価することは極めて重要なことだと思います。ただ、日本の場合は物価がマイナスから横ばい傾向で、実質値で評価すると名目値における本質的な停滞が隠れてしまいます。そこで、本稿ではまず名目値を優先して取り上げています。

 もし皆さんが、実質値、名目値、どちらかのデータしか見たことがなければ、もう一方の値がどのように変化しているのか、興味を持つとよいでしょう。

企業が「モノやサービスの値段を上げられていない」

 今回は、経済統計上の変化を表す指標の中で「物価」について紹介しました。日本は物価については、先進国の中で特徴的な推移をしています。つまり、1990年中頃から物価が低下し、停滞する「相対的デフレ期」が継続しています。近年はやや上昇傾向ですが、今回のコロナ禍でどうなるかは、今後見ていく必要があるでしょう。

 物価とは個々のモノやサービスの価格を総合した指標ですので、私たち企業が販売するモノやサービスの販売価格とも密接な関係があります。つまり、私たちからすると、この数十年間「モノやサービスの値段を上げられていない」ということになります。

 逆にいえば、インフレが定着している日本以外の国では、モノやサービスの値段を上げていくのが「当たり前」です。日本だけが、値段を上げられていない異常事態ということになります。これが“相対的”デフレという意味です。インフレが当たり前の世界の中で、唯一物価が停滞しているということは、相対的には物価が下がっていることになりますからね。

 では、なぜ日本では物価が上がらないのでしょうか。

 実は、今回紹介した消費者物価指数やGDPデフレータは1つの国内における物価の変動を表しただけの指標です。国際的にその国の物価が高いのか低いのかは、物価指標からだけでは分かりません。日本の物価が停滞するヒントは「為替」や「物価水準」にあるかもしれません。消費者物価指数やGDPデフレータなどの物価指標と物価水準(Price Level)は似ていますし、関係もありますが、少し違う指標です。

 そこで次回は、「為替」「購買力平価」「物価水準」について紹介していきたいと思います。

≫連載「『ファクト』から考える中小製造業の生きる道」の目次

筆者紹介

小川真由(おがわ まさよし)
株式会社小川製作所 取締役

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 慶應義塾大学 理工学部卒業(義塾賞受賞)、同大学院 理工学研究科 修士課程(専門はシステム工学、航空宇宙工学)修了後、富士重工業株式会社(現 株式会社SUBARU)航空宇宙カンパニーにて新規航空機の開発業務に従事。精密機械加工メーカーにて修業後、現職。

 医療器具や食品加工機械分野での溶接・バフ研磨などの職人技術による部品製作、5軸加工などを駆使した航空機や半導体製造装置など先端分野の精密部品の供給、3D CADを活用した開発支援事業等を展開。日本の経済統計についてブログやTwitterでの情報発信も行っている。


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