製造業が「サービス化」を実現する4つのパターンとそのポイント顧客起点でデザインするサービスイノベーション(4)(3/3 ページ)

» 2021年02月22日 11時00分 公開
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「データビジネス」型

 「データビジネス」型は製造業にとっては最も新しい形のサービス化だといえるだろう。これは「新規」製品を「新規」顧客に提供する場合に生きるサービスビジネスモデルとなる。

 製造業がデータを活用してサービス化を実現した事例は非常に少なく、各社まだ検討段階だと捉えている。日本企業の中では、東芝が極めて先進的な取り組みを行っている。同社は、2020年2月に「東芝データ株式会社」を立ち上げ本格的にデータビジネスに乗り出した。東芝データの事業は、東芝が既存の製造業事業で蓄積・保有する有用データを社会で活用するための基盤作りやエコシステム構築であると掲げられている。

 データビジネスを進める中で最大の課題は、データ流通の仕組みが確立されていない点にある。データ活用は1社に閉じたものではなく、必然的に流通の仕組みが必要だが、現在は企業間や業界間で一般化されたルールのない場合がほとんどだ。課題定義の難易度の高さや、関係するステイクホルダーの多さなどから検討が進展しない状況も生まれがちだ。

 この状況を打破するためには2つのアプローチがある。1つ目は、東芝データのように個社が求める仕組みを個社の力で構築するというやり方だ。もう1つが、時間はかかるが国際協調の枠組みの中で足元を固めていくというやり方である。前者は利用価値の高いデータを保有し、仕組みを構築する強いネットワークを持つ企業にしか実現できない。こうした基盤がない企業の多くは後者を選択することとなる。

 後者に関しては、欧州で積極的な取り組みが進められている。例えば、その1つに「GAIA-X」というプロジェクトがある。これは、ドイツのフラウンホーファー研究所が旗振り役となって、データ流通のためのルール作りや、データインフラ構築に向けた要件の整理を進めている。GAIA-Xの取り組みには、産業IoTなどの活動を取りまとめているロボット革命・産業IoTイニシアティブ協議会などを中心に日本も積極関与している。今後グローバルな取り組みになることが想定されるため、データビジネスを志向する日本の製造業としても継続的なウォッチと、必要に応じた関与の強化が求められている。

 データビジネスはデジタルを基盤としたビジネスであるため、事業の複製コストが低く、既存事業と比較すると飛躍的に利益率を向上させられる可能性を秘めている。一方、まだ黎明期であり、トップランナー企業は一定のリスク(リソース投入)を行いながら、グローバルな活動を推進し、さらにそれを自社事業に落とし込む努力が必要になる。短期的には掛ける労務コストの方が大きくなる可能性もあるが、中長期的に得られる果実の大きさを想像しながら、取り組む価値があるビジネス領域だと考えられる。

まとめ

 以上4つのパターンのサービス化について、それぞれのメリット、推進に当たっての課題、課題解決策をまとめると下表のようになる。「どの類型を選択するか」「推進課題の大きさ・高さはどの程度か」「解決できる可能性はあるか」など各社の置かれた経営環境により状況は異なるが、課題を乗り越え、サービス化による事業成長を実現する企業が1社でも増えていくことを期待したい。

photo 「サービス化」の4つのパターンにおけるメリットと推進課題、解決策(クリックで拡大)出典:フューチャー

終わりに

 本連載では、全4回に当たって、製造業がサービスイノベーションを生み出すための勘所について筆者らのコンサルティング・事業経験に基づいて紹介してきた。

 「モノ売り」から「コト売り」へ、サービス化への事業拡大は多くの製造業にとっての大きな経営課題であり続けている。この課題を解決するためには、第2回で紹介した「顧客の徹底的な理解」、第3回で紹介した「スモールでアジャイルな価値検証」、そして今回紹介した「経営としての課題特定と解決」が必要となる。

 経営としての課題解決は依然として難しい問題ではあるが、顧客理解や価値検証については手法論やテクノロジーの進化により以前と比較して実行しやすく、成功確率も高くなってきている。「10年前に試してダメだった」など、過去の失敗でサービス化に対してネガティブな経験を有している製造業は少なくないと考えられるが、社会環境や技術環境が変化してきている今、再度のチャレンジを行う企業や企業人が増えることを祈念して本連載の結びとしたい。

(連載終わり)

≫「顧客起点でデザインするサービスイノベーション」の目次

著者紹介:

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杉江周平(すぎえ しゅうへい) 
フューチャー 製造・物流ディビジョンリーダー
イノベーション・ラボラトリ 取締役

 東京大学大学院広域システム専攻修了後、三菱総合研究所を経て2017年にフューチャーに入社。社内の新規事業として、戦略コンサルティング事業を立ち上げ、製造業や物流業を対象に、経営・事業戦略、新規事業開発、イノベーション戦略などのコンサルティングサービスを推進している。2019年12月よりフューチャーグループ傘下となったイノベーション・ラボラトリの取締役に就任。現在に至る。


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