物質・材料研究機構は、湿潤状態にある生体組織の欠損部に貼るだけで、接着して傷口を閉鎖するシート材料を開発した。耐圧強度が高く、傷をふさいだ後は体内で分解、吸収される。
物質・材料研究機構(NIMS)は2020年12月10日、湿潤状態にある生体組織の欠損部に貼るだけで、傷口に接着して閉鎖できるシート材料を開発したと発表した。傷口がふさがった後は、体内で分解、吸収される機能も持つ。
研究チームはまず、生体組織への浸透性を高めるために、スケソウダラの皮から抽出したスケソウダラゼラチン(タラゼラチン)に、炭素数10個のアルキル基を修飾したデカニル化タラゼラチンを合成。これをエレクトロスピニング法(電界紡糸法)でシート状に加工した。シートは噴霧器などを使う必要がなく、適用部位に貼るだけで接着する。なお、シート原料のもとになるスケソウダラの皮は、カマボコ工場から出る廃棄物を利用するため、製造コストも抑えられる。
開発したシートを、ラット摘出肺の欠損部の表面に貼付して、耐圧強度評価をしたところ、咳をする際の肺にかかる圧力以上でも空気は漏れず、閉鎖効果が持続した。
また、開発したシートは未処理のゼラチンシートや市販シートと比較して、2倍以上の耐圧強度を持つことが分かった。さらに、耐圧強度試験後の状態を調べてみると、未処理のゼラチンシートと市販シートは、シートが肺表面から剥がれたり脱落したりしていたが、開発したシートは試験後も安定的に傷口を覆っていた。
続いて、ラット背部の皮下にシートを埋め込み、分解性、生体親和性を評価したところ、強い炎症を起こすことなく21日以内に分解、吸収された。
現在、外科手術後の傷口に貼付するための医療用シートとして複数種が利用されているが、組織接着性、生体親和性、価格などの面で課題がある。今回開発したシートは、臓器や組織表面の欠損部に貼るだけで閉鎖でき、低コストで製造できることから、今後、吸収性シート材料としての応用が期待される。
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