理化学研究所は、ヒトiPS細胞技術と微細加工によるマイクロデバイス技術を用いた「ハートオンチップ型マイクロデバイス」を開発し、高感度な人工心臓の機能評価系を確立した。
理化学研究所は2020年11月5日、ヒトiPS細胞技術と微細加工によるマイクロデバイス技術を用いて「ハートオンチップ型マイクロデバイス」を開発し、高感度な人工心臓の機能評価系を確立したと発表した。
ハートオンチップ型マイクロデバイスは、オーガンオンチップ(Organ-on-a-chip)の1種で、マイクロ心臓組織とマイクロ流体チップで構成されている。マイクロ流路内の蛍光粒子の変異をモニタリングすることで、心臓組織の拍動を可視化し、ポンプ流量、圧力、力など生理的パラメーターを定量化する。これまでに報告されている心筋細胞シートの収縮力評価系と比べて、2桁高い感度で微小な力を検出できる。
マイクロ流体チップ上に装着する3次元的なマイクロ心臓組織は、まず、心筋細胞や血管の細胞など、心臓を構成する多種類の細胞をヒトiPS細胞から誘導して培養し、細胞シート状の人工心臓組織を作製した。この組織を動的トレーニング培養することで、内部に血管網を持つ厚み150〜200μmほどのマイクロ心臓組織を作製した。
次に、微小な電気機械システムであるMicro Electro Mechanical Systems(MEMS)技術により、シリコンの1種ジメチルポリシロキサンを用いて、マイクロ流路を作製した。この上にマイクロ心臓を載せると、拍動が流路に伝えられる仕組みで、微細な拍動を蛍光粒子の動きで可視化できる。
同マイクロデバイスの機能を検証するため、カルシウムイオンセンサータンパク質の遺伝子を導入したiPS細胞からマイクロ心臓組織を作製し、心臓の拍動と相関がある細胞内カルシウムイオンの濃度変化を観察した。その結果、カルシウムイオン濃度の振動と拍動の周波数に相関があることが確認された。
この相関は、マイクロデバイスの拍動速度の変化を反映した蛍光粒子の動きと同じであることから、今回開発したマイクロデバイスが拍動、つまり心筋細胞の活動を捉えていることが分かった。また、心筋の収縮作用を持つβ-アドレナリン受容体を作動させる薬剤、イソプロテレノールを作用させた結果からも、同デバイスが実際の心臓機能を再現していることが確認できた。
これまで、人工心臓組織の機能を高感度に評価できるシステムは確立されていなかったが、今回開発されたマイクロデバイスが、人工心臓の機能評価をはじめ、創薬や心臓毒性試験などに役立つことが期待される。
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