MONOist 2020年版ものづくり白書では、「ダイナミック・ケイパビリティ」などを示しながら日本の製造業に対する危機感を示していましたが、逆に日本の製造業の強みについてはどのように考えていますか。
渡邉氏 例えば、標準化などについては、欧州諸国の方が得意であるといえるでしょう。ただ、それは強弱の裏表で、逆に日本的な「すり合わせ」が苦手という側面もあります。現在でも「日本のモノづくりが強い」といわれる場面は多々ありますが、そういった場面の多くで「現場のすり合わせ力」が登場します。当たり前ですが「標準」を組み合わせるだけではモノは作れません。その「標準の隙間」のようなものを、より良い形で埋められるところが日本の製造業が得意とするところであり、強みなのではないでしょうか。
2020年場ものづくり白書でも取り上げた「ダイナミック・ケイパビリティ」の時代では、「こういうものを作る」とガチガチに決めてモノを作るのはリスクが高い時代になったということを示しています。顧客の要望に応えることで満足度を高めるなど、そういうところが大切になってくるのだと思いますし、そこでは日本が培ってきた「隙間を埋める力」はより生かされてくると感じています。
MONOist 一方で2020年版ものづくり白書では、設計などエンジニアリングチェーンの強化も強く訴えており、その中でも「フロントローディング」について強調しています。「現場合わせ」や「現場主義」は、この「フロントローディング」を重視する流れとは逆行するようにも感じられますが、その点はどう考えますか。
渡邉氏 それについては「持続可能性」を考えていく必要があると思います。現場で人の力だけで完璧に合わせるということには限界が見えつつあります。製品なども複雑性を増していますし、これらを支える人材そのものが足りなくなる状況があります。日本の製造業の強みを生かしつつ、こうした仕組みをデジタル基盤に載せていくことで、労働人口が少なくなったり、現地に全員が集まれるような環境ではなくなったりしても、事業を続けられる仕組みを作ることが必要となります。
そういう意味ではフロントローディングといっても前段階で全てをガチガチに固めてしまうという意味ではなく、日本の良さである「隙間を埋める」ような強みが発揮できる仕組みを構築することが必要だと考えています。
MONOist 製造業のデジタル化が本格的に普及する時期についてはどう考えていますか。
渡邉氏 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響もあり、現時点での予測は難しいと考えます。ただ、2021年版ものづくり白書に掲載する調査をそろそろ始めるのですが、COVID-19で投資抑制の動きも出ていますので、製造業のデータ活用が大きく上向くとは考えにくいと見ています。今後しばらくは、デジタル化の重要性は認識しているものの取り組みを広げるのが難しいというじりじりした状況が続いていくのではないでしょうか。ただ、中長期で見た場合には確実に広がっていくと考えています。
新型コロナウイルスの影響も含め、現在も日本の製造業を取り巻く状況は目まぐるしく変化している。景気の底打ち感はあるものの、先が見えない状況でのデジタル化への着手は多くの製造業にとって難しい判断だと思われる。しかし、こういう状況だからこそ、来るべきデジタル変革の時を見据え、まずは部門間の連携強化についてもう一度考えてみる機会としてみてはいかがだろうか。製造業のデジタル変革の下支えとして、その利点を最大限に生かせる組織作りも同時に求められているといえよう。
長島清香(ながしま さやか)
編集者として地域情報誌やIT系Webメディアを手掛けたのち、シンガポールにてビジネス系情報誌の編集者として経験を重ねる。現在はフリーライターとして、モノづくり系情報サイトをはじめ、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
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