製造業のデジタル変革は停滞? 経済産業省の担当者が見る現状と未来予測ものづくり白書2020を読み解く(4)(2/3 ページ)

» 2020年10月19日 11時00分 公開
[長島清香MONOist]

デジタル化はあくまでもツールの1つ

MONOist 確かに2020年版ものづくり白書に示されている調査結果でも、リードタイム短縮のためにデジタル化よりも他部門との連携促進を進めることを示したものがありましたね(図6)。

photo 図6:製品設計のリードタイム短縮を図るための取り組みとして重視しているもの(クリックで拡大)出典:2020年版ものづくり白書

渡邉氏 デジタル化の前にまだアナログでできることがあるという考え方です。ただ、情報の収集や分析などはデジタルの方が効率的にできますので、今後は間違いなくそちらの方向に向かうと考えています。

 実際にこの部門間連携が「効果を発揮している」ということを示す調査結果も出ています。2020年版ものづくり白書をみると、ここ5年間で工程設計(生産技術)力が「向上している」と回答した企業は、その79.2%が要因として「生産技術、製造、調達といった他部門との連携強化」を挙げています(図7)。

photo 図7:工程設計力が向上した理由(クリックで拡大)出典:2020年版ものづくり白書

 デジタル化は確かに重要ですが、製造業にとってはあくまでもツールの1つです。デジタルに限らず部門間の連携や部品の共通化など、モノづくりのボトルネックをいかに減らしていくかという取り組みが少しずつ行われているのだと考えます。デジタル化とも並行してやっているとは思うのですが、ハードルの低さで言えば部門間連携のほうが取り組みやすいとは思いますので、少しデジタル意欲が低く見えるような結果が出てしまったと考えています。

MONOist 「設計と製造の壁」などはずっと以前から言われてきたことですが、今も残り続けています。現在の取り組みが進むことで、現場の壁は取り除かれると考えますか。

渡邉氏 私は徐々に取り除かれていくと考えます。昔はそれこそ設計の人は設計だけやっていればいいという形でしたが、それも少しずつ変わっていくだろうと見ています。モノづくりを進めるにおいて、設計だけではなく製造や検査など他部門の考えが分かった方が、よりよいものができるのは明らかです。

 従来は、こうしたコラボレーションなどを進めようとしても手段が限定されており、またその負荷も高くなっていました。しかし、デジタル技術はこうした負荷を圧倒的に下げてくれます。コミュニケーションのコストが下がり、その結果としてさまざまな連携や人事的な交流が容易に行えるようになります。そうなってくると「こうした価値を活用しない手はない」というように考え方も変わっていくのではないでしょうか。

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