名古屋大学は、新型コロナウイルスを捕捉、不活性化する人工抗体を作製した。独自に開発した人工抗体作製技術を用いて、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質に結合する人工抗体をわずか4日間で同定した。
名古屋大学は2020年9月23日、新型コロナウイルスを捕捉、不活性化する人工抗体を作製したと発表した。独自に開発した人工抗体を高速に作製する「TRAP提示法」を用いて、10兆種類の人工抗体群から、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質に結合する人工抗体をわずか4日間で同定した。名古屋医療センターとの共同研究による成果だ。
→特設サイト「新型コロナウイルス 製造業が直面する未曾有の試練」
ウイルスのタンパク質に強く結合する抗体は、治療目的の中和抗体や抗原検査の際にウイルスタンパク質を特異的に捕捉する抗体として使用できる。今回の研究ではまず、TRAP提示法を用いて、新型コロナウイルスに結合する人工抗体を作製した。この人工抗体は、単量体で新型コロナウイルス表面のスパイクタンパク質にKD=0.4mM程度と強く結合した。
一方、人に感染するウイルスとしては、新型コロナウイルスに最も近縁のSARSコロナウイルス表面のスパイクタンパク質には結合せず、高い特異性を示した。
また、この人工抗体と患者の鼻から採取した検体を混ぜ、人工抗体を磁気ビーズで回収することで、高効率に新型コロナウイルスを濃縮できた。新型コロナウイルスと人工抗体を混ぜ、細胞に感染できないように中和することにも成功。この中和活性はIC50=0.5nM程度であり、これまでに報告のあった中和抗体のうち、最良のものと同等だった。
今回得られた人工抗体の骨格は、ヒト由来のタンパク質のため、抗原性は低いと予想される。さらに、通常の抗体とは異なり、大腸菌での大量生産が可能だ。抗原検査に使用する抗体や中和抗体は開発に数カ月を有するが、TRAP提示法は短時間で人工抗体を作製できるため、新型コロナウイルスや他のパンデミックに素早く対処するための技術として期待できる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.