材料を積み重ねていく積層ピッチを指定します。一般的に、積層ピッチが細かければ細かいほど、きれいな仕上がりになります。ただし、その分時間がかかります。
3Dプリンタの中には、積層ピッチを指定できるものとできないものがあり、指定できる積層ピッチの値についても機種によって異なります。
例えば、FDM方式の場合だと0.1〜0.5mmまでの範囲が一般的です。最近では、0.1mmよりも細かい積層ピッチを指定できるものもあります。一方、他の造形方式を用いる機種の場合、数十ミクロン(μm)単位で積層され、表面がきれいに仕上がるものもあります。
積層ピッチは、細かくなればなるほど造形時間がかかりますが、スライサーで造形スピードを設定できる3Dプリンタもあります。
FDM方式の場合は、熱で樹脂材料を溶かしてノズルから吐出しますが、ノズルの温度を設定する、もしくは使用する材料を指定することでノズル温度が変更されるものなどもあります。
また、造形物の密着度を上げたり、造形物の反りを防止したりするために、温度を指定して造形プレートを温められるものや、押し出された樹脂材料を冷却するファンのON/OFFを設定できるもの、ノズルが次の積層場所まで移動する際の材料の引き戻し量を設定できるものなどがあります。他にも、多色で造形できる3Dプリンタの場合、色の設定項目が入ってきます。
一般的な無料のスライサーの多くは、積層ピッチや造形スピードを途中から変更できませんが、有料のスライサーの中には、積層していく高さの範囲を指定して、前述したような各種設定を変えられるものもあります。
FDM方式の場合、造形物の内部を格子状などにして、充填(じゅうてん)する材料の密度を設定できます。このとき、密度を粗くすることで造形時間を短縮し、材料の使用量を抑え、軽量化することができますが、強度や剛性が落ちる場合もあるので注意が必要です。
今回取り上げたスライサーの項目を設定する順序は、使用するソフトウェアやその人の好みによってさまざまですが、一般的なFDM方式の3Dプリンタであれば、これらを設定することで、造形を開始できます。
積層ピッチや造形スピードなどの数値設定については、任意で細かく指定できますが、ソフトウェア側で「(造形品質)低/中/高」などの選択肢が用意されているものもあります。例えば、「高」を選択すれば、積層ピッチが細かく、造形スピードも品質重視の最適なスピードに設定され、高品質な造形物を出力できます(ただし、その分時間はかかります)。逆に「低」を選ぶと、積層ピッチは粗くなりますが、造形時間を短縮できます。後者は形状確認を目的とした試作などに適しているといえます。
3Dプリンタの活用経験が浅い方は、はじめのうちはスライサーのデフォルト設定で造形し、慣れてきたら、速度や品質など目的に合わせて設定項目を調整してみるとよいでしょう。
当然のことですが、今回紹介したスライサーの設定画面を操作しているだけでは、3Dプリンタ活用の経験やスキルを積むことはできません。実際に、スライサーで設定したものを3Dプリントして、よく観察し、設定の違いによる変化を比較することで、初めて理解度が深まっていきます。どうすれば早く造形できるのか、どうすれば品質良く造形できるのか、どうすれば材料費を抑えて造形できるのか……など、ぜひ自分自身で追求していただければと思います。
その細かな“追い込み”を行うための道具が、今回紹介したスライサーです。スライサーの設定で造形品質の7〜8割が決定するといっても過言ではありません。スライサーの設定次第では、3Dプリンタの性能を最大限に引き出すことも可能です。今回の内容を参考に、3Dプリンタの理解度をさらに深め、より良いモノづくりにつなげていただければ幸いです。今後の連載の中で、活用事例なども紹介していきたいと思いますので、引き続き本連載をよろしくお願いします! (次回に続く)
小原照記(おばら てるき)
いわてデジタルエンジニア育成センターのセンター長、3次元設計能力検定協会の理事も務める。3D CADを中心とした講習会を小学生から大人まで幅広い世代の人に行い、3Dデータを活用できる人材を増やす活動をしている。また企業の困り事に対し、デジタルツールを使って支援している。人は宝、財産であると考え、時代に対応する、即戦力になれる人財、また、時代を創るプロフェッショナルな人財の育成を目指している。優秀な人財がいるところには、仕事が集まり、人が集まって、より魅力ある街になっていくと考えて地方でもできること、地方だからできることを考えて日々活動している。
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