会見では、中堅中小企業のニューノーマルに向けた事例も報告された。製造業で興味深い取り組みを実施しているのが武蔵精密工業である。
同社は四輪車や二輪車のパワートレイン部品、フレーム/足回り部品などを手掛ける自動車部品メーカーである。2019年度の連結売上高は2363億円で、15カ国35拠点で1万6323人の従業員が働く比較的規模の大きい中堅企業だ。
同社 PT事業部 PT Gear 2 グループ グループマネージャーの衛藤明頼氏は「従業員の多くが海外メンバーであり、これまでも海外拠点における生産立ち上げでは日本から現地に渡航して対応していた」と語る。しかし2020年3月に予定していたメキシコ工場の生産ライン立ち上げは、COVID-19の影響により海外渡航が難しくなり、従来のやり方では対応できなくなってしまった。
武蔵精密工業は「ある意味で、海外技術支援の在り方を再構築する機会」(衛藤氏)と捉え、同年4月にマイクロソフトのMR(複合現実)デバイス「HoloLens2」と「Dynamics 365 Remote Assist」を用いたリモート支援ソリューションの導入検討を開始。5月には導入を決めてメキシコ工場にHoloLens2などの機材を送り、生産立ち上げのリモート支援の準備を進めた。
そして実際に、加工設備8台の立ち上げのリモート支援を設備メーカーの技術者などと共同して実施し、各種の調整や加工精度確認などを行った。従来は、日本から11人の技術者が渡航して支援していたことを考えると、11人分の渡航費用220万円と業務時間約264時間を削減できたことになる。
このメキシコ工場での成果を基に、インドネシアやハンガリーでもリモート支援を実施しており、今後はカナダやベトナムの生産ライン立ち上げにも適用する方針である。衛藤氏は「実際にモノを触れないこと、通訳を介しての作業伝達、工場内でのWi-Fiの整備などさまざまな課題があるが、改善を進めたい。海外に導入する設備が日本にあるうちに作成した作業マニュアルと『Dynamics 365 Guides』を組み合わせた支援なども検討している」と述べている。
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