シフトレバーをDレンジにシフトし走り出そう。車体中央側へのオフセットが小さくなったアクセルを踏み込む。ダイハツやスズキの軽自動車の最新モデルにも試乗したことがあるが、エンジンの元気さはやはりホンダが1枚上手だ。43kWの最大出力を7300rpmという高回転域で絞り出す新開発のS07B3気筒エンジンで、パワフルかつスムースに回る。トルクコンバーターを持つCVTも、平坦路を普通に走っている限りでは全く問題なく自然に車速が上がっていく。
驚くべきはその乗り心地だ。サスペンションが本当に良く動き、路面のギャップやうねりを何重にも緩和して、出来の良いシート越しに柔らかくドライバーに伝える。まるで1980年代のフランス車のような快適さだ。エンジンノイズや排気音、風切音も時速70〜80kmならほとんど聞こえてこない。先代N-WGNに比べると2段階、いやそれ以上レベルが上がっている。先代は前席に乗っている分には我慢ができる範囲だが、路面のギャップによる突き上げがひどく、とにかく後席の乗り心地が悪かった。この乗り心地の良さは新型「N-BOX」の発売直後に試乗して感じていて、同一プラットフォームのN-WGNにも当然受け継がれるだろうとは予想していたが、改めて驚いた。
なぜここまで乗り心地が良くなったのだろうか? 決してサスペンションに高級なものを採用したわけではなく、高いボディー剛性と軽量化のなせる業だろう。今回のモデルチェンジでは、Bピラーを中心としたドア廻りのボディー溶接の多くの部分を、従来のスポット溶接からレーザーによるシーム接合に変更。フロア周りには高粘度接着剤による接合を採用した。点接合から線接合への変化でボディ剛性を飛躍的に高めるとともに、高張力鋼板の使用割合を3倍に増やした。これにより、ホワイトボディで150kg、安全・快適装備などの増加分を差し引いても車体重量を80kg低減した。この2点でサスペンションが本来の性能を発揮し、まるでフランス車のようなしなやかな足を得ることができたのだろう。
そしてその裏には、本田技術研究所の四輪車の開発機能がホンダの四輪事業本部にエンジニアとともに移管されたことを忘れてはならないだろう。優秀なエンジニアがよりお客様に近い視点でクルマの開発を進めたことはホンダの戦略として間違いがないと思っている。
試乗コースにはちょっとしたワインディングがあった。少しペースを上げてコーナーを抜けると、ロールは大きいものの不安なく向きを変えていく。ホンダの電動パワーステアリングの制御は、Nシリーズを発売した2011年頃からずいぶん良くなった。ブレーキの利き具合にも不満はない。ただし、同じコースを新型N-BOXで走った時にはロールの大きさと視線と重心の高さで少し怖さを感じ、速度を落とさざるを得なかった。山間部を走ることが多いのであればスーパーハイトワゴンは選択しない方が良いだろう。
今回の試乗で最も印象に残ったのはその乗り心地の良さだ。今までの軽自動車とは明らかにレベルが違う。そして先進の安全装置がてんこ盛り。軽自動車の価格が高くなったと言われるが、1番廉価なGグレードなら税抜き118万円で買える。新型N-WGNは筆者が自信をもってお勧めできる1台だ。
お薦めは、Lグレード(エンジンはNA、当然ホンダセンシング付き)だ。Gグレードの税抜き価格にプラス6万円で、ETC車載器、シートヒーター、4スピーカー、UV・IRカットガラス、USBジャック2個が装備される。またGグレードでは設定のないメーカーオプションのLEDヘッドランプもある。
筆者は今後、友人知人から相談されたときには「Nシリーズ」を薦めるだろう。フルモデルチェンジが噂されているN-ONEには当然このプラットフォームが使用され、6速マニュアルミッションが搭載されるという。しなやかな足はそのままに、ロールを押さえ、元気なエンジンをマニュアルミッションで走らせることができれば、きっと楽しいクルマになることだろう。今から楽しみにしている。
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