もう1つの論点として、「トラックを売ることのリスク」に目を向ける必要があります。自動運転中に事故が起きれば、整備不良が原因だったとしても、それを立証できない限り、「運転者=メーカー」の責任になります。それゆえ、多くのトラックメーカーは、トラックを売らないことを考えるようになるはずです。トラックを売るのではなく、レンタルで提供し、返却時に整備すれば、事故リスクを最小化できるからです。
実のところ、トラックメーカーからして、この「トラックを売らない会社」への転換は、決して悪い話ではありません。ディーラーの利益の源泉であるアフターサービスを囲い込めるからです。トラックの稼働や整備の状況を完全にトレースできれば、新車の開発にも資する情報を得られるはずです。本来販売していたトラックをレンタルすることでの資産の過大化、キャッシュフローの悪化は最大の難点といえますが、ファイナンス会社とアライアンスを組むことでオフバランス化を図ることも可能でしょう。
ダイムラー、ボルボ、スカニアといった欧州の大手トラックメーカーは、「トラックを売らない会社」への転換を企図した取り組みを進めています。整備工場の買収やファイナンス会社の提携といった具体策も実行されています。トラックメーカーであれば、「トラックを売らない会社」への転換、すなわち、トラックを売るのではなく、輸送サービスとして提供するTaaSへの進化も1つの選択肢に、自動運転が普及した後の世界におけるビジネスモデルを創造すべきです。
ところで、日本には6万社を超えるトラック運送事業者が存在します。なぜ、これほどまでに事業者数が多いかというと、下請けや孫請けどころか、ひ孫請けも珍しくない「下請多層構造」になっているからです。建設業界と同様の構造にあるといっても差し支えないでしょう。
そして、数多くの事業者が存在するからこそ、全体最適の実現には相応のハードルがあります。トラックの現在地、出荷・納品場所、積荷の容量と種類、今後の配送計画などの情報が事業者の垣根を越えて共有されれば、国内にある全てのトラックを対象に、積み合わせを最大限追求することで、積載率を高められるはずですが、そのような状況にはいまだ至っていません。結果、出荷の小ロット化や運送事業者の増加もあり、ドライバーが不足しているのにもかかわらず、積載率は低下の一途をたどっています。
将来、自動運転トラックが輸送サービスとして提供されるようになったとき、この状況は一変するはずです。自動運転トラックの配車を最適化するにあたり、現在地、出荷・納品場所、今後の配送計画などの情報は半ば必然的にデータ化されるからです。走行の安定性を担保するため、荷台にセンサーを取り付け、積荷の重量や形状などを把握することも想定されます。
しかも、自動運転トラックをTaaSとして提供する事業者は、相当の投資とビッグデータの蓄積を必要とするがゆえに、極少数に限られるはずです。従って、あまたの運送事業者が個別に把握していた情報を統合管理できるようになります。単に自動運転トラックをTaaSとして提供するだけではなく、トラック輸送の全体最適を実現する輸送プラットフォーマーへの飛躍を十分に期待できるでしょう。
さて、次回は、トラックと同様、将来のサービスビジネス化が想定される物流ロボットを対象に、RaaS(Robot as a Service)の可能性を紹介します。
小野塚 征志(おのづか まさし) 株式会社ローランド・ベルガー パートナー
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、富士総合研究所、みずほ情報総研を経て現職。ロジスティクス/サプライチェーン分野を中心に、長期ビジョン、経営計画、成長戦略、新規事業開発、M&A戦略、事業再構築、構造改革等を始めとする多様なコンサルティングサービスを展開。2019年3月、日本経済新聞出版社より『ロジスティクス4.0−物流の創造的革新』を上梓。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.