では、どうやって1つのモーターで2つの部品を独立させて、タイミングよく動かしているのでしょうか。
図5を見てください。青色のライン上にピンがあるとき、ディスク読み込みユニットは上がっている状態です。ピンが赤色のライン上に来ると、ディスク読み込みユニットは下がり始めます。そして、緑色の水平ライン上をピンが通っている間は、下がった状態を保持します。このように溝カムの形状を工夫することで、トレーが動いていてディスク読み込みユニットが停止している状況が作れるのです。
しかし、これだけではトレーが停止状態で、ディスク読み込みユニットだけを動かすことはできません。それに、溝カムの水平部分はトレーの可動範囲に比べて短く、トレーが開き切る前に溝が終わって、ピンがぶつかってしまいます。この対策として、トレーの可動範囲に合わせて溝を長くするという考えもありますが、これでは光学ドライブの筐体自体の幅も広げなければならないため、無駄に大きな製品になってしまいます。
この問題を解決してくれるのが、もう1つの溝カムです。それはトレーの裏側に設けられており、この中を溝カム付きラックにあるピンが通っていきます。
では早速、どのようにしてそれぞれの部品を動かしているのか見ていきましょう。図7をご覧ください。赤色○印で示したのがピンの位置です。
トレーが完全に閉じている場合、トレー用ラックとトレー用ピニオンギアはかみ合っていません。溝カム付きラックと溝カム用ピニオンギアがかみ合っている状態のため、モーターが回ると溝カム付きラックだけが動いてトレーは開きません。トレー用のピニオンギアは空回りしている状態です。
溝カム付きラックのピンが、トレーの溝カムの斜め部分を通り始めると、トレーが開く方向に少し動きます。すると、トレー用ラックとトレー用ピニオンギアがかみ合い、トレーが開いていきます。
トレーの溝カムに引っ張られる形で溝カム付きラックが動き、溝カム用ピニオンギアから外れます。今度はトレーだけが動いて、溝カム用ピニオンギアは空回りしている状態です。
(3)〜(4)の間は、トレーの溝カムのストレート部分をピンが通るため、溝カム付きラックは待機して、トレーだけが動きます。
戻る際は、この逆の動きとなります。こうしてディスクが引っ掛かることなく、トレーの開閉が行われます。このように“部品の待機区間が作れる”のも溝カム機構の特長の1つかと思います。
さて、今回は前回に引き続き、光学ドライブに使われている溝カムの動きを見ていきました。「こんな複雑なことをしなくても、モーターとセンサーを増やせばいいのではないか」と思われる方も多いのではないでしょうか。
それも1つの正解なのかもしれませんが、製品設計を行う中ではいろいろな制限が出てきます。スペースの問題なのか、電気系統の問題なのか、その製品ごとに理由はさまざまですが、限られたスペースと動力の中で、いかに製品仕様を満たす機構を完成させるかが、メカ設計者の腕の見せ所といえます。そのためにも、多くの機構を実際に見て学ぶことはとても大切なことです。これからも身近なモノからさまざまな機構を学んでいきましょう!
次回は、ノック式ボールペンの謎について解説します。(次回に続く)
久保田昌希
1981年長野県生まれ。大学卒業後、大手住宅メーカーの営業職に就くも退職。その後に就いた派遣コーディネーターの仕事で製造ラインの人員管理などを行い製造業に関わりを持つ。その中でもっと直接モノづくりに関わってみたい、自分で製品を生み出してみたいという思いが強くなり、リーマンショックを機に退職。職業訓練で3D CADや製図、旋盤やマシニングセンターの使い方を学んだ後、現在のプロノハーツに入社。比較的早い段階から3Dプリンタを自由に使える環境に身を置けたため、設計をしてはすぐに社内試作を繰り返し、お客さまからもたくさんのご指導を頂きながら、現在では医療機器からVRゴーグルまでさまざまな製品の開発、試作品の製作を受託。その経験を生かし子供たちに向けた3D CADや3Dプリンタの使い方講座なども行っている。
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