身近にあるモノを題材に、それがどんな仕組みで動いていて、どんな機構が使われているのかを分かりやすく解説する連載。今回はつまみの付いた昔ながらの扇風機をテーマに、首振り機構の仕組みを理解する。
さまざまな機構を学び、理解することで、設計者はアイデアを無限に広げていきます。いくつもの機構を組み合わせ、また自ら創造し、製品の仕様を満たした形を作り上げていくのです。
本連載「身近なモノから学ぶ機構設計“超”入門」では、われわれの身近にあるモノを題材に、それがどんな仕組みで動いていて、どんな機構が使われているのかを、機械に詳しくない方にも分かりやすく解説していきたいと思います。
筆者自身、10年前までは機構設計など全く分からない素人でした。大学も経済学部卒の文系出身で、新卒で就いた仕事は住宅メーカーの営業マンです。それから紆余(うよ)曲折があり、プロノハーツで製品設計のエンジニアとしての人生を歩み出すことになったのです。
そんな筆者も今では、お客さまに頼りにしていただき、さまざまな案件を任せていただけるようになりました。それも先人が作ってきたものがどうやって動いているかを調べ、時にバラして確認し、実際に自分で作ってみるといったことを繰り返してきたからではないかと思います。もちろん、機構学をしっかりと学ぶのも大切なことです。しかし、ただ計算式を覚えるだけ、名称を覚えるだけではなかなか使いこなすことはできません。理解を深めるためには、実際に動いているものを見て仕組みを理解すること、自分で作って動かしてみることが必要です。
本連載が、これから機械・機構設計を学ぼうとしている方々のアイデアを広げていくきっかけになれば幸いです。
夏の暑い日に欠かせない扇風機。最近では羽のない扇風機や、温度センサーが付いたスタイリッシュなデザインのものなど高級な扇風機も売り出されていますが、今回取り上げるのは、画像1のような羽の後ろに飛び出した首振りつまみがあり、それを押し込むと首を振り始め、引っ張ると首振りが止まる昔ながらの扇風機です(画像1)。
首振りつまみを押し込むと同時に扇風機が首を振り出す――。誰もが一度はどうやって動いているのだろうか? と気になったことがあるのではないでしょうか。
実際に中身を見てみる前に、首振りの動きから少し中身を想像してみましょう。
扇風機の首振り機能を「ON」にして扇風機の強/弱を切り替えると、首振りの速度も速くなったり、遅くなったりします。羽の回転スピードと首振りのスピードが連動していることから、首振り用のモーターが付いていて、一定の角度で正転/反転を繰り返しているというわけではなく、“扇風機の羽を回転させる力を利用している”ことが想像できます。
しかし、羽の回転と首振りは回転の軸が違いますし、同じ方向に回り続ける羽に対して、扇風機の首は同じ軌道を行ったり来たりの往復運動です。つまり、扇風機の首振り機構を実現するには、“回転軸を変える機構”と“回転を往復運動に変える機構”が必要であると想像できます。
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