理化学研究所は、皮膚の感覚神経が「皮膚バリア」によって保護される仕組みを明らかにした。皮膚バリアの減弱によって引き起こされるかゆみのメカニズム解明に寄与し、アトピー性皮膚炎などのかゆみを抑える治療法開発が期待される。
理化学研究所は2019年6月19日、皮膚の感覚神経が「皮膚バリア」によって保護される仕組みを明らかにしたと発表した。同研究所生命医科学研究センター チームリーダーの岡田峰陽氏らの共同研究グループによる成果だ。
表皮には、皮膚バリア機能を持つ構造が2つある。1つは表皮の一番外側にある死んだ角化細胞からなる角質層で、もう1つがそのすぐ内側で死ぬ少し前の角化細胞が形成するタイトジャンクション(TJ)だ。今回の研究では、TJと感覚神経の位置関係について解析した。
まず、表皮TJと神経の位置関係をレーザー蛍光顕微鏡で3次元的に解析した結果、ヒトの正常皮膚内では、TJを貫通して外側に出ている神経線維はほとんど観察できなかった。一方、アトピー性皮膚炎の病原検体では、表皮TJは全く観察できないほど減弱していた。症状が軽く、肉眼での病変確認が難しい検体でも、TJ構造が減弱している部分があることを確認した。
この仕組みを観察するため、マウス表皮神経の生体イメージング解析を実施したところ、表皮神経終末は活発に伸縮していることを確認した。また、TJバリアのすぐ内側まで伸びた神経線維では、新旧TJバリアが入れ替わる際に、その交点で末端部分の繊維が切れて断片化・消失する「剪定」が起こることが分かった。
これに対し、発症時期のアトピー性皮膚炎のモデルマウス(Spadeマウス)では、速やかな剪定が起きずTJに貫入する神経細胞を観察。剪定異常の部分を起点として、感覚神経の異常な活性化が起こることを明らかにした。
既にかみが出始めているSpadeマウスでは、その皮膚にTRPA1と呼ばれるイオンチャネルの阻害剤を塗布すると、感覚神経の異常な活性化とかゆみが抑制された。また、TRPA1遺伝子欠損Spadeマウスでは、掻痒皮膚炎が減弱した。
これらの結果から、TJバリアの減弱によって感覚神経終末の剪定に異常をきたし、神経のTJバリアへの貫入や外側への突出が発生することが分かった。また、そこから神経の異常な活性化が起こり、かゆみが発生するという可能性が示唆された。同成果は、皮膚バリアの減弱によって起こるかゆみのメカニズム解明に寄与し、アトピー性皮膚炎などのかゆみを抑える治療法開発が期待される。
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