日産がクルマとソフトの両面を知る技術者育成を強化、研修施設を公開車載ソフトウェア(2/2 ページ)

» 2019年07月04日 06時00分 公開
[松本貴志MONOist]
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車載ソフトウェア開発を一気通貫で、ADAS開発も実習

 トレーニングは3段階に分かれており、合計480時間分の講義と実習で構成されている。各段階では理解度確認試験が用意され、試験に合格することで次のステップに進むことができる。全ステップを受講後、帰任1カ月で自業務への学習成果適用を提案する「成果発表」を行うことでトレーニングの修了資格が認定される。

カリキュラムの全体像(クリックで拡大) 出典:日産自動車

 第1段階となる「ステップ0:ソフトウェア基礎」では、ソフトウェアが動作する初歩的な原理から学ぶ。その後、クルマ独自のハードウェアである車載マイコンの基本やC言語を用いたプログラミング、車載ソフトウェア開発の基礎などを学習する座学が14講座、12日間にわたって行われる。

 第2段階となる「ステップ1:モデルベース開発」では、量産車開発で注目が集まるモデルベース開発(MBD)やラピッドプロトタイピングなどを10講座と実践課題で25日間にわたり学ぶ。講義では車両の運動モデルから制御モデルの組み立て方、制御理論、各種ツールの利用法などを習得する。実践課題ではADASの一部機能について、与えられた仕様書に沿った制御仕様の検討とプロトタイプモデル開発を行い、ラジコンカーで実走テストを行う。

左:ステップ0:ソフトウェア基礎の概要 右:ステップ1:モデルベース開発の概要(クリックで拡大) 出典:日産自動車
左:実演されたステップ1の実践課題「障害物回避」の概要 右:ラジコンカーに入力するプロトタイプモデルを設定する(クリックで拡大) 出典:日産自動車
ステップ1の実践課題「障害物回避」の実演(クリックで動画再生)

 第3段階となる「ステップ2:量産ソフトウェア開発」は16講座と実践課題で構成され、量産段階で求められるモデルの作成法や実ECUへの実装と評価技法などを学ぶ。ステップ1とステップ2では、日産社内で規定されている「アライアンスモデルガイドライン」への適合確認やモデル再利用可能性の改善といった“量産段階での実践力”を重視している点でも学習内容が異なる。実践課題では、一部機能を実装したADASソフトウェア開発をモデル作成からHIL(Hardware In the Loop)による実ECUテストまで行い、ソフトウェア開発プロセスの全工程を経験する。

ステップ2:量産ソフトウェア開発の概要(クリックで拡大) 出典:日産自動車

 ADAS先行技術開発部署でモデリングや評価に携わる同社技術者は、トレーニングを修了したことで「V字プロセスを一気通貫で経験できたことにより、他の部署がどのような業務を担っているかが具体的に理解できるようになった。日産のソフトウェア開発全体の品質が向上するよう、業務を進める視点を持つことができた」と語る。

 また、現在トレーニングに参加する同社技術者は「これまで同じ部署の先輩から開発ツールの使い方を学び業務に従事してきたが、新しい作業を行う場合には手探りでツールを使ってきた」とし、「このトレーニングで開発ツールの利用法を正確に理解できたことが今後の業務に生かせる」と述べた。

 豊増氏は「OEM(自動車メーカー)は実車試験をなるべく減らしたいと考えており、デジタルの開発フェーズでいかに性能確認を行うか検討している。日産ソフトウェアトレーニングセンターで優秀なソフトウェア人材を育成することで、デジタルフェーズにおける開発の質が上がり、開発期間の短縮などにもつながるだろう」と述べる。

 同センターは2020年末までに累計300人の技術者を輩出する方針だ。2022年度には、同センターでのトレーニング受講経験者が日産のソフトウェア開発人材で約10分の1となる累計500人に達すると見込んでいる。

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