MONOist スペースシーが上下を分離する形に至るまで、どのような議論がありましたか。
臼井氏 最初に出てきた絵は、用途ごとの専用車両を描いていて、われわれの電動パワートレインを使ったクルマをどうするかという議論だった。ただ、ビジネスとしては専用車両を何パターンも作ってもコスト高でもうからない。絵を見ながら話し合っても悶々とする期間だった。屋台なんかを見ていると、営業中に駐車している時に駆動部分は不要だ。上と下の稼働率が全然違っているので、上下を分離してしまえば下の駆動部分は人を乗せたり、ごみを回収に行ったりすることができると考えた。
武藤氏 限られた時間の中、「上下分離構造」というキーワードでデザインを描くのは難しかった。これまでに描いたデザインの形を少しずつ変えても、事業部のアイデアを実現する形とは思えなかった。絵を描いているだけでは抜け出せなかったのに、日常生活でふと、見た目からキャビンと駆動部分をきっちり分けて、下だけ使うというアイデアがクルマとして形になった。生みの苦しみだった。
臼井氏 上下分離構造のモビリティが絵として出てくると、分離構造と用途に合わせたパッケージをどう設計するかという話に移行できた。これまでにないものを新たに生み出すための非連続性に向けた一歩だった。
武藤氏 デザインが難しかったのは、1台目のスペースエルよりも、2台目のスペースシーのほうだ。スペースエルには初めてクルマをデザインする大変さがあり、スペースシーはその経験を応用できたが、スペースシーは動くものを設計するという制約もあった。スペースシーの外形寸法は、当初もっと小さいものを想定していたが、永平寺町の実証実験で使用している車両と同じパワートレインを使うため、大きさも日本の5ナンバーサイズに収めた。
MONOist 3台目のコンセプトカーは開発しますか。
臼井氏 詳細は明らかにできないが、クルマ丸ごとデザインすることを通して人々の生活を考える取り組みは続けていく。移動という面では、クルマから水陸両用か、空を飛ばすか、という案もある。2台のコンセプトカーを発表したことで、ビジネス上のメリットもあった。これまで、自動車メーカーとやりとりする分野は限られていたが、ボディーや外観、デザイン部門の方から、一緒にこういうパッケージを考えたいと早い段階から話し合いに参加させていただけるようになった。
電機メーカーからみた「生活ってこうだよね」というアプローチや発想は引き合いが強い。都市開発や旅客、運輸などの企業からも声がかかり、非連続なビジネスのきっかけになっている。ソリューション提案で事業基盤を作っていく期間に、お客さまとそういう話を行える土台ができたのはいいことだ。
武藤氏 プロダクトデザインだけでなく、サービスやユーザーエクスペリエンスなど、さまざまなデザインを使ってビジネスを広げていきたい。
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