デジタル化などによって変化の激しい時代を勝ち抜くためにさまざまな取り組みを進めるパナソニック。その中でも際立った取り組みとなっているのが、パナソニック アプライアンス社のデザインスタジオ「FUTURE LIFE FACTORY」が企画開発した、集中力を高めるウェアラブル端末「WEAR SPACE」だ。
創業100周年を迎えたパナソニックは、社長の津賀一宏氏が「家電の会社から、暮らしアップデート業の会社になる」と宣言する※)など、デジタル化などによって変化の激しい時代を勝ち抜くためにさまざまな取り組みを進めている。
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その中でも際立った取り組みの1つとなっているのが、パナソニック アプライアンス社のデザインスタジオ「FUTURE LIFE FACTORY(以下、FLF)」が企画開発した、集中力を高めるウェアラブル端末「WEAR SPACE(ウェアスペース)」だろう。2018年4月にパナソニック傘下に入ったShiftall(シフトール)と共同で製品化を進め、同年10月2日からクラウドファンディングによる事業化プロジェクトをスタートさせている。パナソニックが企画開発した製品をクラウドファンディングで事業化するのは初めてのことだが、これ以外にもさまざまな“初めて”の歩みを重ねてきたのがWEAR SPACEになる。
WEAR SPACEは、周囲の音を遮断するノイズキャンセリング機能のヘッドフォンと、視界を調整できるパーティションで構成された、新しいウェアラブル端末だ。オープンな空間にいながらも、WEAR SPACEを身に着けることで、瞬時に周囲との境界を作り出し、心理的なパーソナル空間を生み出す。その名の通り「空間を着る」ような効果が得られるのだ。
働き方改革を進める企業では、フリーアドレスの採用やコワーキングスペースの活用などが始まっているが、作業に集中したいときに集中しづらいことが課題になっている。そういったときにWEAR SPACEを使えば、場所を移動することなく作業に集中できる。また、デスクワーカーだけでなく、日本酒のテイスティングを集中して行ったり、ADHD(注意欠陥・多動性障害)の人々が集中して作業を行ったりできるようにするなど、さまざまな用途の広がりも想定している。
WEAR SPACEのクラウドファンディングは2018年12月11日が期限となっており、調達目標額は1500万円。1台当たりの支援額は2万8000円(税込み)だ。現時点(11月29日)での進捗は目標金額の81%に当たる1224万円となっている。
従来のパナソニックという企業の枠組みでは、WEAR SPACEという既存のカテゴリーにない製品を開発し、さらにはクラウドファンディングで商品化するという流れは想像しづらい。では、WEAR SPACEは、パナソニックの中でどのようにして生まれ、これまでの道のりを歩んできたのだろうか。そこで、パナソニックのFLFでWEAR SPACEの企画開発に携わってきた、アプライアンス社 デザインセンター 新領域開発課の足立昭博氏、姜花瑛氏、井野智晃氏と、製品化を担当するShiftallの甲斐祐樹氏に話を聞いた。
MONOist 今回、WEAR SPACEを企画開発した皆さんが所属するFLFは、パナソニック アプライアンス社 デザインセンターの東京拠点という位置付けです。まずはFLFについて教えてもらえますでしょうか。
足立氏 デザインセンターの東京拠点自体は2016年の設立になります。事業部と連携しながら、創業100周年製品を開発することを目的としていました。われわれは、先行開発担当として東京と関西を行き来していました。
現在のFLFにつながる大きな変化があったのが2017年です。現在のデザインセンター所長である臼井(重雄氏)が就任し、東京拠点の在り方について方向性を変えることになったんです。
井野氏 臼井は、中国で上海のデザインセンターを立ち上げてからの9年間、さまざまな変化や進化を経験したそうです。そこで日本に戻ってきたところ、日本が変わらなさ過ぎて驚いたそうです。東京は、関西にいたままでは得られない、さまざまな出会いや新しいことを学ぶ機会があります。パナソニックのデザインセンターを変える上で、その機会をもっと生かせるような組織にしようと考えたわけです。
足立氏 そこでチームリーダーの内田(亮太氏)を中心に、東京でどういう活動をやっていくかを考えました。そこで出てきた2つの活動の軸が「新しい事業の種を作り出す」「新しい未来の形を作る」です。FLFの活動は、これらを基軸により幅広い活動を進めて行くことになりました。
それまでデザイン活動の成果は、半年に1回行われる事業部のコンペに上げるものでした。そして、それらのほとんどは製品化されません。基本的に事業部ひも付き、内向きでやっていたデザイン活動を、FLFではまず外に向けて見せて行くことになったのです。
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