MONOist WEAR SPACEについてかなり良い手応えを得られたわけですが、デザインスタジオであるFLFが商品化に乗り出すのはかなり難しかったのではないでしょうか。
姜氏 まず、FLFの中で、デザインスタジオとしてWEAR SPACEの商品化にどこまでリソースをかけられるのか、という議論がありました。「WEAR SPACEにこだわらず、他の新しいアイデアをもっと出していくべきでは」「事業部と同じことをするべきなのか」「(デザインセンターの中核拠点である)京都でもできることでは」といった問いかけもありました。現在は、既にWEAR SPACEの商品化に踏み切ってはいますが、今でもそういった意味での葛藤はあります。
しかし、これまでにWEAR SPACEを見せてきた人々が商品化に大きな期待を寄せていること、FLFとして、パナソニックとして、新たな生活文化を創り出していく使命を果たしたいという思いもあり、そのためにも商品化する必要があると考えました。
井野氏 そのころパナソニックとして取り組みを始めていた「デザイン経営」を基に、デザインの役割を従来通りのまま留めるべきではない、事業化の視点も必要なのでは、という意見もあり、WEAR SPACEの商品化が決まりました。
MONOist さまざまな議論を経て商品化に踏み出したWEAR SPACEですが、今回の事業化プロジェクトで設計、製造、販売を担当するShiftallが関わり始めたのはいつごろになりますか。
甲斐氏 Shiftallとして商品化に加わったのは2018年6月ですね。FLFのメンバーも含めて本格的に活動を始めたのは7月になります。代表取締役の岩佐(琢磨氏)個人としては、SXSWに出展した際を含めていろいろ相談を受けています。
姜氏 商品化を決めた当初は夏にもクラウドファンディングを始めたい意気込みでした。ただ、意気込みだけではダメで、パナソニック社内でさまざまな手続きをする必要がありましたし、何より社内の理解を得るためにやるべきこともたくさんありました。
足立氏 クラウドファンディングをはじめ、パナソニックにとって今までにない初めてのことばかりだったので、何をやればいいのか分からなかったのもありますね。デザイナーとしてこれまで全く経験していないことをやりました。
Shiftallがパナソニック傘下に入る際に、岩佐さんが「(パナソニックに)ベンチャーの血を注入する」と言っていましたが、それを地で行くような活動だったと思います。
甲斐氏 そういったこともありつつ、年末をまたがないよう、10月2日にクラウドファンディングを開始できたのは絶妙なタイミングだったと思います。
MONOist WEAR SPACEのデザインですが、当初と比べてかなり変わりましたね。
井野氏 デザインコンセプトとしてハードルになっていたのが、ヘッドバンドを使わずに装着する点です。初期は、それを実現するために横から圧力をかける側圧で保持していました。しかし、展示会で10〜20分試す分にはそれでもいいんですが、職場で長時間使っていると痛くなるという課題が出てきました。この課題を解決するために、側圧で保持するのではなく、イヤーパッドなどで支える方式を採用するととともに、フレームの肉抜きを行って軽量化も進めました。
甲斐氏 現在のプロトタイプは3Dプリンタで骨格を作っていますが、商品化に向けて型を起こしていくので、軽量化や装着感の向上なども図れると思います。商品出荷は2019年8月を予定しています。
MONOist WEAR SPACEの事業化プロジェクトによって得た経験や、今後の抱負について教えてください。
井野氏 今までは、デザインしたものが事業化承認された上で、何万台も生産して、量販店などに置かれることでしかお客さまに製品を届けられませんでした。しかし、クラウドファンディングであれば、たとえ500台(WEAR SPACEの販売目標)の規模でもお客さまに直接商品を届けられます。これはとてもうれしいですね。
足立氏 FLFは、デザインのアイデアを出すだけの組織ではなく、社会を変えていくこともミッションになっています。WEAR SPACEに関する取り組みを通して、社外からの見られ方も変わりましたし、デザイン側からの発想で会社を変えられる可能性を感じることもできました。
姜氏 パナソニック社内からは、WEAR SPACEに対して色んなリアクションをもらっています。これも、パナソニックとして今までにない「新しいことをやっちゃった」からだと思っています。今のパナソニックは、新しいことをやろうという雰囲気はかなりできていますが、実際に「新しいことをやった」事例はまだ少ないので、そういう意味でも成果になっているのではないでしょうか。
あと、WEAR SPACEは比較的小型の機器だったから、事業化まで取り組めたという側面もあります。冷蔵庫やエアコンといった大型の製品では難しかったかもしれません。しかし、事業を大きく伸ばすのもそういった製品です。だからこそ、WEAR SPACEで得た経験を還元できればと思っています。
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