では、どのようなモビリティが適するのだろうか。望ましい要件を以下の通り挙げてみた。一定規模の人員を運べること、ゼロエミッションであること、大規模なインフラを要しないこと、既存の技術を使えることなどが考えられる。地域によっては、雪害に強いこと、坂道に強いことなど、個々に特徴が必要となることもあるだろう。
こうした新たなモビリティのアイデアはどうすれば具現化できるだろうか。実現手法はいろいろあるが、答えは必ずしも1つではない。筆者は1つのアイデアとして、トラムタイプの大型電気連結バスをイメージした。軌道設置が不要で、現在の道路にもそのまま適用できる。また、路面電車がある都市でも、順次切り替えていくことも可能である。ゼロエミッションのため、ある区間は地下もしくはトンネル通行も可能となる。もちろん、それ以外に新しい発想も生まれてくるだろう。
そう思っていたら、若干近いコンセプトとして、2018年12月中旬、名古屋市はバス高速輸送システム(BRT)を発表した。SRT(Smart Roadway Transit)と呼ばれるもので、自動運転や制御技術を取り入れた、未来型のバスをイメージしたものである、2027年のリニア中央新幹線開業時に全面開通できるよう、事業計画の策定を目指すようだ。
また、コンセプトは異なるが、Tesla(テスラ)のイーロン・マスク氏は、採掘会社ボーリングを設立し、ロサンゼルス郊外の地下に完成させた高速地下交通システム「Loop」と呼ばれる試験トンネル開通イベントを公開した。この新しい交通システムは、地上からエレベーターでEV(電気自動車)を地下に下ろし、台車の上にセットすると、時速約200kmで地下トンネルを移動することができる。
このように、現在の都市交通の在り方に関して、既に動き始めている方々もいる。日本でも都市化が進み、さらにはインバウンドまで含めて都市を訪れる人が増加傾向にある。そろそろ将来に対するモビリティの在り方について創造し着手する時期に来ているのではないだろうか。都市計画、都市交通は簡単ではなく、多くの人々の創意と工夫が必要である。おそらくこのままで良いという人は少なく、将来像をどう描くかはわれわれの責務だろう。
最後に、全く勝手な個人的見解ではあるが、もし、このような新しいモビリティがどこに必要かと考えると、いろいろ候補はあるものの、いの一番に京都を挙げたい。訪れる度に、地下鉄やバスは観光客が溢れ、既存のモビリティが既にパンクしているように見受ける。古の都は、来るべき次の千年を見据えて、新たな将来像を必要としているように思えてならない。
和田憲一郎(わだ けんいちろう)
三菱自動車に入社後、2005年に新世代電気自動車の開発担当者に任命され「i-MiEV」の開発に着手。開発プロジェクトが正式発足と同時に、MiEV商品開発プロジェクトのプロジェクトマネージャーに就任。2010年から本社にてEV充電インフラビジネスをけん引。2013年3月に同社を退社して、同年4月に車両の電動化に特化したエレクトリフィケーション コンサルティングを設立。2015年6月には、株式会社日本電動化研究所への法人化を果たしている。
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