日本の自動車産業がとるべき戦略は「返し技」にあり和田憲一郎の電動化新時代!(44)(1/3 ページ)

最近、EV(電気自動車)に関する記事が急激に増加している。特に掲載されている記事は、欧米中で起きている環境規制強化や、それに伴う自動車メーカーや電池メーカーの動きといった情報が多い。日本の自動車産業は大口市場である欧米中の動向を無視してはビジネスが成り立たない。では今度どうすべきであろうか。欧州を中心とした規制強化の現状や、それに対応する日本の自動車産業の再生戦略について、筆者の考えを紹介したい。

» 2021年10月13日 06時00分 公開

 最近、EV(電気自動車)に関する記事が急激に増加している。特に掲載されている記事は、欧米中で起きている環境規制強化や、それに伴う自動車メーカーや電池メーカーの動きといった情報が多い。日本の自動車産業は大口市場である欧米中の動向を無視してはビジネスが成り立たない。

 では今度どうすべきであろうか。欧州を中心とした規制強化の現状や、それに対応する日本の自動車産業の再生戦略について、筆者の考えを紹介したい。

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規制強化が日本に変革を迫る

 歴史を振り返ると、自動車は誕生以来、多くの規制が実施されてきた。古くは、シートベルト機構の設置であり、エアバック装置の装着などである。衝突安全もあれば、ライティング、盗難防止など多彩である。いったん、各種規制が法規として実施されると、その国や地域では、他に何の問題がなくても販売できなくなる。

 近年、環境規制の動きが強まり、2021年に入って2つの大きな規制が欧州委員会から公表された。現時点では草案の段階であり、法制化には欧州連合理事会や欧州議会の承認が必要である。しかし、大手メーカーなどからは大きな反発がなく、事前に水面下で相当の根回しがあったと思われる。

 その中の1つが、欧州委員会が2021年4月21日に公表した欧州タクソノミー規則の「技術的スクリーニング基準」(草案)である。タクソノミーとは分類するという意味であり、では何を分類するかといえば、サステナブルに投資するか否かの基準を明らかにするものである。この法案は自動車のみならず、発電所など多くの事業を網羅している。

 その中で、世界で初めてと思われるが、ガソリン車、ディーゼル車、ハイブリッド車(HEV)に続いて、プラグインハイブリッド車(PHEV)を投資対象から外すと明記した。

 これまで米国ZEV規制、中国NEV規制でも、EVや燃料電池車(FCV)に並んで、PHEVは新エネルギー車の1つとして優遇されてきた。しかし、欧州委員会はPHEVすらもゼロエミッションでないと対象外としたのである。「サステナブル投資」の対象から外れることは、ESG(環境、社会、ガバナンス)を重視する投資家から投資を得られなくなることに直結する。まさに、欧州発によるPHEVの終わりの始まりといえるのではないだろうか。

 もう1つの規制は、「Fit for 55 Package」(草案)と呼ばれるものである。これも欧州委員会により2021年7月14日に公表された。2030年の温室効果ガス削減目標を、1990年比で少なくとも55%削減を達成するための政策パッケージであることから「55」と数字が入っている。当該法案は、乗用車や小型商用車のみならず、排出量取引制度、炭素国境調整メカニズム、再生可能エネルギー、航空燃料、海運などが網羅されている。筆者がざっとみたところ、約4000ページに及ぶ数多くの法案のパッケージであり、欧州委員会の本気度がうかがえる。

 その中で、乗用車と小型商用車については、ガソリン車やディーゼル車のみならず、HEVやPHEVも含めて内燃機関を搭載するクルマの新規販売を2035年に禁止することが盛り込まれた。なお、日本ではHEVつぶしの法案と捉える向きもあるが、乗用車に限らず、船舶などもゼロエミッション化を要求しており、全ての産業を対象に規制をかけている。

 これらを見る限り、確かに環境規制と呼ばれるが、欧州委員会はこのような環境規制を世界に先駆けて公表することで、環境対応の「先駆者」になれると説いている。つまり、環境規制と産業振興の両面を持った法案ということができる。

図表1:Fit for 55 packageの影響[クリックで拡大] 出所:日本電動化研究所が欧州委員会案を整理
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